マテリアルズインフォマティクス・材料
温度とは?原子の揺れで分かる、材料が伸びる・溶ける・混ざる理由
- 温度
- 固体物理
- 熱力学
- 統計力学
- 熱膨張
- 融解
- 拡散
- 負の温度
- リンデマンの融解則
- 負の熱膨張
- ゼロ点振動
- 絶対零度
- 原子核スピン
- Debye 温度
- 運動エネルギー
- 熱伝導
- ヘリウム
- ケイ素
- ゲルマニウム
- 融点
- 熱処理
目次
熱いお茶は熱く、氷は冷たい。温度の違いは手で触れば分かる。熱いものと冷たいものを触れ合わせておくと、熱は熱いほうから冷たいほうへ流れ、やがて両者の温度が揃う。
温度は材料の姿も変える。温度を上げると多くの材料はわずかに伸び、さらに上げると溶ける。橋に伸縮継手が入っているのも、継目のあるレールにすき間があるのも、夏に伸びる分を逃がすためである。金属を熱して性質を整える熱処理や、半導体に不純物をしみ込ませる工程は、温度を上げると別の物質の原子がしみ込みやすくなることを使っている。
こうした目に見える変化の下で、材料の中の原子は、決まった場所に並んでいても、その場で絶えず小刻みに震えている。
原子の目線で見ると、温度とは何が起きている状態で、温度が上がると材料の性質はなぜ変わるのか。
材料の中では、温度は原子の揺れの激しさとして現れ、熱いほど原子は激しく揺れる。 揺れが大きくなると、多くの材料では原子どうしの力の非対称性で平均の間隔が広がって材料が伸び、さらに大きくなると並びが崩れて溶け、原子が別の物質の中へ移りやすくなる。ただし揺れの激しさは温度の一般的な定義ではなく、取りうるエネルギーに上限のある原子核スピンの系では負の温度が実現している。
温度が2倍になると、原子の運動エネルギーも2倍になる
※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。
原子の運動を古典力学で扱えるほど高い温度では、原子1個の運動エネルギーの平均は温度に比例し、ボルツマン定数を k として (3/2)kT になる。温度 500 K と 1000 K の二つの場合で比べる。
- 500 K では、原子1個の運動エネルギーの平均は約 0.065 eV になる。
- 1000 K では、同じ量が約 0.129 eV になり、500 K の2倍になる。
この比べ方から、次の二つの性質が出る。
- 温度を2倍にすると、運動エネルギーの平均も2倍になり、原子の速さの目安(速さの二乗平均の平方根)は約1.41倍になる。
- 温度を下げると運動エネルギーの平均は小さくなるが、低い温度では量子力学の効果でこの比例が崩れ、絶対零度でも運動は止まりきらない。
熱い・冷たいは「原子の運動の激しさ」
固体の中の原子は、決まった場所に並んではいるが、その場でずっと小刻みに震えている。 温めるとは、この震えにエネルギーを足すこと。だから熱いほど、原子は激しく揺れる。
「熱が高い方から低い方へ流れる」のも、これで腑に落ちる。激しく動く原子が、動きの小さい隣の原子へ運動エネルギーを渡す。原子どうしがぶつかり合ううちに、全体の激しさが平らになる。この状態が「温度が等しくなる」ということだ。(この受け渡しが原子どうしの直接のやり取りで進むのは、セラミックスのような絶縁体の場合。金属では自由に動ける電子が運び手の主役を務めるが、激しさが平らになるという絵は変わらない。)
この「原子の運動の激しさ」という素朴な描像は、材料の原子(並進運動)にはよく当てはまるものの、温度の一般的な定義そのものではない。「負の温度」という状態を実際に作り出せるのは、取りうるエネルギーに上限のある系に限られる。向きの数が限られた原子核スピンのように、等間隔のエネルギー準位が有限個しかない系がこれにあたる。こうした系で最も起こりやすい準位への分かれ方はボルツマン分布で、温度はその分かれ方を決める量として現れ、1系あたりの平均エネルギーが準位の中央より低ければ正、高ければ負になる1。運動エネルギーのように上限のない自由度では、この状態は原理的に作れない。
原子核スピンが追随できないほど急激に磁場の向きを反転させると、スピンの集団が新しい磁場と逆を向いたまま取り残される。1951年に報告された実験は、そう予想したうえで反転した磁化を記録している。著者らはこの反転した状態を負の温度で記述できると考え、単一の温度で足りるかはまだ確かめる必要があるとしつつ、結晶を地球磁場の中へ通しても反転した磁化が保たれたことをその根拠に挙げている。反転したスピン系は、内部エネルギーを失いながらエントロピーを増やしていく。負の温度の状態は、正の無限大の温度よりもさらに「熱い」。正の温度の相手に触れさせると、この状態は必ずエネルギーを渡す側にまわる1。日常の材料の話には出てこないが、「温度=運動の激しさ」がどこまでの近似かを知る手がかりにはなる。
揺れが大きくなると、材料が変わる
原子の震えが大きくなると、目に見える性質が次々に変わる。
- 伸びる(熱膨張):原子どうしは近づく側では強く反発し、離れる側ではゆるくしか引き合わない。この非対称性のせいで、揺れが大きくなるほど平均の位置はわずかに外側へずれる。もし力が対称(調和的)だったなら、この熱膨張は起きないはずだ2。ただし、これは多くの材料に当てはまる一般則であって普遍法則ではない。原子の結合角が曲がりやすいなど特定の構造条件を満たす一部の材料では、逆に温めると縮む「負の熱膨張」が起きる。構造がもっと単純なケイ素やゲルマニウムでも、低温域で同じ縮みが実測されている3。
- 溶ける(融解):融点が近づくにつれて、熱膨張そのものが加速していく2。揺れがある限界を超えると、原子は決まった場所に留まれなくなり、並びが崩れて自由に動き回る。この状態が液体だ。「融点」とは、その境目の温度。揺れの振幅で限界を測るこの見立ては「リンデマンの融解則」と呼ばれ、融点を Debye 温度と体積で結ぶその公式は、固体ヘリウムを圧縮して Debye 温度が3倍余り違う融点どうしを比べても、ほぼ同じ定数で成り立った4。ただし同じ測定値から別の研究者が見積もったところでは、融点での振幅は一定ではなく、低温側では古典値の3倍に達する。そのため「振幅が限界に達すると溶ける」という素朴な論法のほうは、ヘリウムでは成り立たない4。
- 混ざる・しみ込む(拡散):熱いほど原子は活発に動くので、別の物質の中へもぐり込みやすくなる。
逆に、冷たさとは運動が乏しい状態だ。極限まで冷やした「絶対零度(−273.15℃)」は、原子の運動がこれ以上は減らせない底とされる。 (厳密には、量子力学のせいで完全には止まらない“ゼロ点振動”が残る。その詳細は別の機会に回すが、ここでは実例を一つ挙げる。ヘリウムは原子同士を引き合う力がとても弱く、しかも原子そのものが軽い。ゼロ点振動の大きさは原子が軽いほど大きくなるので、弱い引力と大きなゼロ点振動が重なって、絶対零度まで冷やしても自分では固体になれない。他の希ガスで同じことが起きないのは、この二つが同時に極端なのがヘリウムだけだからだ。圧力をかけて原子を近づけない限りヘリウムが液体のままであることは、古くから測定で知られている4。)
古典力学で扱える高温域での温度と粒子の平均運動エネルギーの比例関係、熱膨張・融解・拡散の温度依存、絶対零度とゼロ点エネルギーは、いずれも標準的な熱力学・統計力学・固体物理の知見に基づく。熱伝導の担い手(絶縁体では格子振動、金属では電子)と、ヘリウムが常圧で固化しない理由(軽い質量と弱い分散力の重なり)も同様である。
出典4件
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E. M. Purcell & R. V. Pound「A Nuclear Spin System at Negative Temperature」Physical Review 81, 1951. https://doi.org/10.1103/PhysRev.81.279 — 磁場の急反転で反転させた核スピン系を負のスピン温度で記述した実験で、単一の温度で足りるかは要確認と著者が留保する。 ↩ ↩2
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V. A. Drebushchak「Thermal expansion of solids: review on theories」J. Therm. Anal. Calorim. 142, 2020. https://link.springer.com/article/10.1007/s10973-020-09370-y — 原子間ポテンシャルの導出が融点近傍の膨張の加速まで記述するとする総説。調和振動子の限界は Luchi ほか。 https://doi.org/10.1088/1361-6552/ad756a ↩ ↩2
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Schick & Rappe「Classical model of negative thermal expansion in solids with expanding bonds」Phys. Rev. B 93, 2016. https://arxiv.org/abs/1604.07785 — 負の熱膨張の理論モデル。Si・Ge の実測は Sparks & Swenson。 https://doi.org/10.1103/PhysRev.163.779 ↩
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Dugdale & Simon「Thermodynamic properties and melting of solid helium」Proc. R. Soc. A 218, 1953. https://doi.org/10.1098/rspa.1953.0105 — 融解公式の定数はほぼ一定だが融点の振幅は一定でない。常圧で液体のままの点は Simon & Swenson。 https://doi.org/10.1038/165829a0 ↩ ↩2 ↩3
この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。