マテリアルズインフォマティクス・材料
温度の正体は原子の運動——激しく揺れるほど熱い
熱いお茶は熱く、氷は冷たい。これは誰でも知っている。 でも、原子の目線に降りていくと、「温度」とは一体何が起きている状態なのだろう。
答えは、拍子抜けするほど単純だ。
温度とは、原子がどれだけ激しく動いているかである。
熱い=原子が激しく揺れている。冷たい=原子があまり動いていない。それだけだ。 原子の「並び」や「ずれ」だけが材料の姿ではない。今回は、その原子たちがじっとしていないという話だ。
熱い・冷たいは「原子の運動の激しさ」
固体の中の原子は、決まった場所に並んではいるが、その場でずっと小刻みに震えている。 温めるとは、この震えにエネルギーを足すこと。だから熱いほど、原子は激しく揺れる。
「熱が高い方から低い方へ流れる」のも、これで腑に落ちる。激しく動く原子が、隣のおとなしい原子を小突いて、運動を分けてやる。バチンバチンとぶつかり合ううちに、全体の激しさが平らになる——それが「温度が等しくなる」だ。(この受け渡しが原子どうしの直接のやり取りで進むのは、セラミックスのような絶縁体の場合。金属では自由に動ける電子が運び手の主役を務めるが、激しさが平らになるという絵は変わらない。)
(余談だが、この「原子の運動の激しさ」という素朴な描像は、材料の原子(並進運動)にはよく当てはまるものの、温度の一般的な定義そのものではない。特殊な条件下では、「負の絶対温度」という状態が実際に作り出され、測定されたことがある。原子核スピンが追随できないほど急激に磁場の向きを反転させると、スピンの集団が新しい磁場と逆を向いたまま取り残される——理論上の産物と思われていた状態が、こうして実現された。これは正の無限大の温度よりもさらに「熱い」という奇妙な状態だ1。日常の材料の話には出てこないが、「温度=運動の激しさ」がどこまでの近似かを知る手がかりにはなる。)
揺れが大きくなると、材料が変わる
原子の震えが大きくなると、目に見える性質が次々に変わる。
- 伸びる(熱膨張):原子どうしは近づく側では強く反発し、離れる側ではゆるくしか引き合わない。この非対称性のせいで、揺れが大きくなるほど平均の位置はわずかに外側へずれる——もし力が対称(調和的)だったなら、この熱膨張は起きないはずだ2。橋に伸縮継手が入っているのも、継目のあるレールにすき間があるのも、夏に伸びる分を逃がすためだ。ただし、これは多くの材料に当てはまる一般則であって普遍法則ではない——原子の結合角が曲がりやすいなど特定の構造条件を満たす一部の材料では、逆に温めると縮む(負の熱膨張)ことが理論的にも示されている3。
- 溶ける(融解):揺れがある限界を超えると、原子は決まった場所に留まれなくなり、並びが崩れて自由に動き回る——これが液体だ。「融点」とは、その境目の温度。
- 混ざる・しみ込む(拡散):熱いほど原子は活発に動くので、別の物質の中へもぐり込みやすくなる。金属を熱して性質を整える「熱処理」も、半導体に不純物をしみ込ませる工程も、この“熱で活発になった原子の移動”を使っている。
逆に、冷たさとは運動が乏しい状態だ。極限まで冷やした「絶対零度(−273.15℃)」は、原子の運動がこれ以上は減らせない底——とされる。 (厳密には、量子力学のせいで完全には止まらない“ゼロ点振動”が残る。が、その話はまた別の機会に——と言いたいところだが、実例が一つある。ヘリウムは原子同士を引き合う力がとても弱く、しかも原子そのものが軽い。ゼロ点振動の大きさは原子が軽いほど大きくなるので、弱い引力と大きなゼロ点振動が重なって、絶対零度まで冷やしても自分では固体になれない。他の希ガスで同じことが起きないのは、この二つが同時に極端なのがヘリウムだけだからだ。圧力をかけて無理やり原子を近づけない限り、液体のまま——という測定が古くから知られている4。)
なぜこの話が効いてくるのか
ここまでの3回で、材料を見る3つの目線が揃った。並び(ダイヤvs黒鉛)、ずれ(金属とガラス)、そして揺れ(温度)。 材料で起きることの多くは、この3つの組み合わせで説明できる。
そして「揺れ」を知ると、ひとつの強力な発想にたどり着く。 原子が震え、ぶつかり、場所を変える——この動きが運動の法則(ニュートン)に従うなら、コンピュータでその動きを一歩ずつ計算して、材料の中で何が起きるかを“覗ける”のではないか? それが「分子動力学」だ。温度を上げたら本当に溶けるのか、ひびはどう走るのか——画面の中で原子を実際に踊らせて、確かめにいける。
温度=粒子の平均運動エネルギー、熱膨張・融解・拡散の温度依存、絶対零度とゼロ点エネルギーは、いずれも標準的な熱力学・統計力学・固体物理の知見に基づく。
出典4件
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E. M. Purcell & R. V. Pound, “A Nuclear Spin System at Negative Temperature,” Physical Review 81, 279–280 (1951)。フッ化リチウム結晶中のリチウム7原子核のスピン集団を人為的に反転させ、負の絶対温度の系を実際に作り出し測定した——「温度=原子の運動の激しさ」という描像が、並進運動には当てはまるが温度の一般的な定義そのものではないことを示す。 https://doi.org/10.1103/PhysRev.81.279 ↩
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V. A. Drebushchak, “Thermal expansion of solids: review on theories,” Journal of Thermal Analysis and Calorimetry 142, 1097–1113 (2020)。熱膨張の理論を整理した総説。要旨は5系統の導出(原子振動の非調和性/格子動力学/Mie の状態方程式/Grüneisen の状態方程式/原子間相互作用ポテンシャル)を並べ、逐語
Only the last theory in this list provides us with the equation describing correctly all features in the thermal expansion——熱膨張の全特徴を正しく記述できるのは最後の原子間相互作用ポテンシャルによる導出だけだと結論している。本文の「近づく側では強く反発し、離れる側ではゆるくしか引き合わない」はそのポテンシャル描像にあたる。なお「対称(調和的)な力では熱膨張が起きない」は標準的な教科書事実(調和ポテンシャルでは平均位置が振幅によらない)で、本総説の本文にあるかは未確認(本文は closed access)。 https://link.springer.com/article/10.1007/s10973-020-09370-y ↩ -
J. T. Schick & A. M. Rappe, “Classical model of negative thermal expansion in solids with expanding bonds,” Physical Review B 93, 214304 (2016)(プレプリント: arXiv:1604.07785)。原子の配位数が低く結合角を曲げるエネルギーが結合を伸縮させるエネルギーより十分小さい、という条件を満たす一部の構造では、温めると縮む「負の熱膨張」が起こりうることを理論モデルで示す——熱膨張が普遍法則でなく多くの材料に当てはまる一般則であることを示す。 https://arxiv.org/abs/1604.07785 ↩
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J. S. Dugdale & F. E. Simon, “Thermodynamic properties and melting of solid helium,” Proceedings of the Royal Society A 218, 291–310 (1953)。固体ヘリウムの熱力学量と融解を測った古典的な研究で、測定範囲は逐語
at temperatures from 4 to 26° K。本文の「絶対零度でも圧力なしには固化しない」を直接支えるのは、絶対零度近傍を扱った F. E. Simon & C. A. Swenson, “The Liquid–Solid Transition in Helium Near Absolute Zero,” Nature 165, 829 (1950) のほうなので、そちらを併記する。なお本記事の主題により近い結果も同 1953 年論文にある——ゼロ点エネルギーを 9/8Rθ と見積もると絶対零度の内部エネルギーが理論値と一致し、圧縮で Debye θ が5倍になる範囲でリンデマンの融解則を検証できた、という点だ。 https://doi.org/10.1038/165829a0 https://doi.org/10.1098/rspa.1953.0105 ↩
この記事はAIが執筆しています。内容には誤りが含まれる可能性があります。ご注意ください。