マテリアルズインフォマティクス・材料
ダイヤモンドと黒鉛の違い:構造・硬さ・電気を通す理由
- ダイヤモンド
- マテリアルズインフォマティクス
- 結晶学
- 固体化学
- X線回折
- SOAP
- 相図
- グラフェン
- ノーベル物理学賞
- 黒鉛
- 炭素
- 結晶構造
- 記述子
- フィンガープリント
- 同素体
- 準安定
- 正四面体
- 活性化エネルギー
- 組成
- カーボンナノチューブ
- フラーレン
- 鉛筆
- シート
- 結合
- ケイ素
目次
地球上で最も硬い天然の物質はダイヤモンドだ。ガラスを切り、岩を削る。一方、鉛筆の芯は紙の上で崩れ、指でこすれば真っ黒に汚れる。性質がここまで違えば、ふつうは中身の元素も違うと考える。
ところが、芯に使われている黒鉛とダイヤモンドは、どちらも純粋な炭素(C)だけでできている。芯そのものは黒鉛に粘土を混ぜて焼き固めたものだが、黒鉛とダイヤモンドの違いは混ぜ物の違いではない。
材料を説明するとき、まず問われるのはそれが何でできているか、つまり組成だ。組成が同じなら性質も似ている、と考えるのは自然に見える。本稿はダイヤモンドと黒鉛の組を例に取り、その見方がどこで足りなくなるかを確かめる。
中身がまったく同じ炭素なのに、なぜ一方は硬く透明で電気を通さず、もう一方はやわらかく電気を通すのか。
違いは原子の並べ方にある。 ダイヤモンドでは各炭素が4つの隣と結合して立体の網をつくり、黒鉛では3つの隣と結合して平らなシートをつくり、シートどうしはほとんどくっついていない。材料の性質は何でできているかだけでなく、どう並んでいるかで決まる。だから材料を計算機で扱うマテリアルズインフォマティクスでは、原子の並べ方を数値でどう写し取るかが中心の課題になる。
同じ100個の原子を、二通りに並べる
※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。
炭素原子を100個用意し、二通りに並べてみる。炭素は1個につき、隣と結合するための手を4本持つ。どちらの場合も、材料の中身を書き出せば「炭素100個」で同じだ。
一つめの並べ方では、どの原子も4つの隣と手をつなぎ、つながりが上下左右前後へ立体的に続く。1本の結合は2個の原子が1本ずつ手を出し合ってできるので、結合の数は 100 × 4 ÷ 2 = 200 本になる。塊をどこで切ろうとしても、切る面は必ず結合を横切る。
二つめの並べ方では、どの原子も3つの隣としか手をつながず、原子は平らなシートに並ぶ。結合は 100 × 3 ÷ 2 = 150 本で、そのすべてがシートの中にある。どの原子にも手が1本ずつ余り、余った手は100本になる。シートとシートのあいだで切れば、横切る結合は1本も無い。
中身は同じ「炭素100個」のまま、二通りの並べ方は次の点で食い違う。
- 中身の書き出し(炭素100個)は同じでも、結合の数と向き、余った手の有無が違う。
- 結合を1本も横切らずに切れる面があるかどうかは、中身の書き出しからは読めず、並べ方を見て初めて分かる。
「立体の網」か、「重なった紙」か
ダイヤモンドでは、ひとつの炭素がまわりの4つと強く結合し、結合が立体的に途切れなく続く。この4方向の結合(正四面体状の配置)は、X線回折という手法でダイヤモンドの結晶構造が初めて解き明かされたときに示された、100年以上前から分かっている構造だ1。 全体がひとつの巨大な“立体の網”になっている。どこを押しても、力はネットワーク全体で受け止められる。 だから硬い。結合の相手に余りがないので電子は動けず、電気を通さず、光もすり抜けるので透明だ。
黒鉛では、ひとつの炭素は3つとしか結合しない。すると原子は平らなシート状に並ぶ。 シートの中はとても丈夫なのに、シートとシートの間はほとんど“くっついていない”。 だから紙の上で軽くこするだけで、シートが剥がれて紙に移る。これが鉛筆で字が書ける理由だ。 余った電子がシートの上を自由に走れるので、電気も通す。 ここまでの硬さ・電気の通しやすさ・透明さの説明は、固体化学・結晶学の標準的な知見による。
材料がまるで違うのに、組成は同じ炭素だ。違うのは、並べ方だけ。
組成が同じなら、構造を数値で写し取る必要がある
ひとことで「マテリアルズインフォマティクス(MI)」と言っても、その射程は広い。材料データベースの整備から物性予測、新材料の探索まで、材料に情報技術を持ち込む営み全般を指す言葉だからだ。ただ、その広がりの中心には、材料そのものを数値の並び(記述子・フィンガープリント)として写し取り、そこから性質への対応を学ぶ、という一点がある2。ダイヤモンドと黒鉛は、その芯にあたる組だ。組成が同じ(どちらも炭素)でも、並べ方が違えば性質は正反対になる。つまり、「炭素である」という情報だけでは性質は決まらず、原子の並べ方(構造)をどう数値で写し取るかが問われる。
ここで引いた総説は、記述子の細かさを、扱う問題と求める予測の精度に応じて選ぶものとして整理している。そのうえで、原子1個ずつの環境を写し取る細かい記述子を、新しい試みとしてではなく、相や構造モチーフを精密に見分けるには欠かせないものとして扱っている。ただしその設計はなお主要な課題とされ、SOAP を含む候補がいくつも提案されている段階だ。総説はまた、原子の並びを細かく写す記述子(SOAP)が別の研究で同素体の区別に使えたことを挙げている(示されている例はケイ素の原子環境の分類だ)2。
黒鉛を1枚はがすとグラフェンになる
黒鉛のシートを1枚だけはがし取ったものが「グラフェン」だ。 2004年に取り出され、その研究は2010年のノーベル物理学賞になった3。 鉛筆の芯の中に、ノーベル賞級の素材が層になって入っていた。実際、選考機関のプレスリリースも、2人がふつうの鉛筆に入っているような黒鉛からグラフェンを取り出したと書いている3。同じ受賞の一般向け解説は、グラフェンをこれまでで最も薄く、しかも最も強い材料と呼び、電気を銅と同じくらいよく通すと書いている3。この事実も、性質が組成だけでは決まらないことの一例だ。 一般向け解説はまた、グラフェンを丸めればカーボンナノチューブ、折りたためばフラーレン(1996年のノーベル化学賞)になると書いている。炭素の並べ方は、ダイヤモンド・黒鉛・グラフェンの3つで尽きない3。
常温・常圧で安定なのは黒鉛のほう
常温・常圧では、黒鉛のほうが“安定”な形とされ、ダイヤモンドはそちらへ戻ろうとする準安定な状態だ。ただし固体のまま結晶の形が変わる際の活性化エネルギーは高く、常温ではその変化はほとんど進まない。炭素の圧力・温度と結晶形の対応関係(相図)を整理した総説も、固相変態の活性化エネルギーが高いので、黒鉛とダイヤモンドのほかにも準安定な形が生じ、そのまま残りうると述べている4。
出典4件
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Bragg, W. H.; Bragg, W. L.「The Structure of the Diamond」Proc. R. Soc. Lond. A 89(610), 277–291, 1913. https://doi.org/10.1098/rspa.1913.0084 — X線回折で、炭素が正四面体状に4つの隣と結合するダイヤモンドの結晶構造を示した論文。 ↩
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Ramprasad, R. ほか「Machine learning in materials informatics: recent applications and prospects」npj Comput. Mater. 3, 54, 2017. https://www.nature.com/articles/s41524-017-0056-5 — 材料を記述子(フィンガープリント)で数値化する枠組みの総説。 ↩ ↩2
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The Nobel Prize in Physics 2010(A. K. Geim, K. S. Novoselov). https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2010/press-release/ https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2010/ https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/advanced-physicsprize2010.pdf https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2010/popular-information/ — 授賞ページ・プレスリリース(鉛筆の黒鉛から取り出した)・科学的背景解説(2004年の分離)・一般向け解説(ナノチューブとフラーレン)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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Bundy ら「The pressure-temperature phase and transformation diagram for carbon; updated through 1994」Carbon 1996. https://doi.org/10.1016/0008-6223%2896%2900170-4 — 準安定形の凍結を論じる。低圧の黒鉛安定は Srinivasan ら 2022 https://doi.org/10.1038/s41467-022-30820-8 ↩
この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。