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マテリアルズインフォマティクス・材料

金属は曲がるのにガラスが割れるのはなぜ?転位とすべり面の有無

2026/6/21 (更新: 2026/10/11)

  • 金属
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  • 加工硬化
  • 弾性率
  • Taylor
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  • ケイ素
  • 電子の海
  • 粘性流動
  • 靭性
目次
背景・問い・要点
背景

スプーンを強く曲げると、スプーンは曲がって元に戻らない。しかし割れはしない。ガラスのコップを床に落とすと、コップは曲がらずに、いきなり割れる。どちらも硬くて冷たい固体なのに、壊れ方が正反対だ。

材料科学では、力を受けた固体が割れずに形を変え、元に戻らないことを塑性変形と呼ぶ。曲がるという中間を経ずに割れる性質が「脆い(もろい)」である。どちらの側に立つかは、原子がどう並び、力を受けたときにどうずれるかで決まる。

固体の中の原子は、互いに結合して決まった位置にとどまっている。力を受けると、原子はその位置からずれる。ずれた原子が別の相手と結合をつなぎ直せれば、形は変わっても材料はひと続きのまま残る。つなぎ直せなければ、ずれは結合を切る方向へ進み、材料は二つに分かれる。

問い

金属は曲がりガラスは割れるという違いは、原子の並びとずれ方のどこから生まれるのか。

要点

すべるか割れるかを主に分けているのは材質名ではなく、動かせるすべり面があるかと、結合が方向にこだわらないかの二つである。 金属の結晶では「転位」という列のズレが少しずつ伝わるので、小さな力で形を変えられる。ガラスは周期性を欠く網目で、結合の向きも縛られているため、すべりで力を逃がせず、表面の微小な傷から一気に割れる。結晶格子を持たない金属ガラスは、結合が金属的でもすべり面を欠くため、単一相のものの多くは室温の引張でほとんど伸びずに破断する。

モデル・例示

同じ引張でも、大きい傷から先にひびが走る

※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。

ガラスの表面に、径の違う二つの傷があるとする。ひびが走り出すのは、傷のまわりが引張の状態にあり、応力と傷の径の平方根の積が材料ごとの臨界値を超えたときである。臨界値を 400(単位は MPa·√µm)と置く。

  • 引張 100 MPa で、径 4 µm の傷:100 × √4 = 200 で、臨界値に届かない。ひびは走らない。
  • 同じ引張 100 MPa で、径 25 µm の傷:100 × √25 = 500 で、臨界値を超える。ひびが走り、割れる。

次に、表面にあらかじめ 150 MPa の圧縮をかけておく。外から 100 MPa の引張を加えても、表面は差し引き 50 MPa の圧縮のままである。傷のまわりが引張にならないので、径 25 µm の傷でもひびは走り出さない。

割れるかどうかは、傷の大きさと表面の応力の向きで決まる。

  1. 引張が同じなら、割れるかどうかを決めるのは傷の大きさで、大きい傷が先に臨界値に届く。
  2. 表面を圧縮しておくと、外からの引張がその圧縮を上回るまで、圧縮された表面に収まる傷は広がれない。

金属:原子の層が「すべる」から、曲がる

金属の中では、原子がきれいな格子に並んでいる。そして金属の結合は“方向にこだわらない”。 電子が全体に薄く広がった「電子の海」が原子をつないでいる(この描像そのものは本稿の出典の外にある)。

ここに力を加えると、原子の層と層が、相手を選ばずにすべる。 すべった先でまた別の原子と結合し直せるので、形が変わっても壊れない。これが「曲がる・へこむ・伸びる」の正体だ。

実際には、層が一斉にすべるのではなく、「転位(てんい、英: dislocation)」という列のズレが、ドミノのように少しずつ動いていく。Taylor は、上の列の原子を下の列に対して一斉にずらすなら材料の弾性率に匹敵する応力が要るはずだと見積もったうえで、すべりがすべり面の一部だけで起き、それが結晶の端から端へ有限の時間をかけて伝わると考えれば「状況はまったく変わる」と書いた1。 だから金属は、見た目よりずっと小さな力で変形できる。針金が曲げられるのも、鉄が圧延で板になるのも、これのおかげだ。

逆に、金属にわざと不純物や乱れを入れて転位を動きにくくすると、金属は硬く・強くなる。合金や加工硬化がこれにあたる1。

ガラス:すべれないから、割れる

ガラスの中の原子は、金属と違ってバラバラの向きで、がっちりつながっている(規則正しい結晶ではなく、固まった液体のような“アモルファス”構造)。原子が規則正しい格子を作らず網目状につながっているという描像は、Zachariasen が1932年に、対称性と周期性を欠く三次元の網目として提唱した2。 結晶のような規則正しいすべり面がないのは、この周期性の欠如の帰結だ。周期性が無いために、ガラスには構造的に等価な原子が二つと無い2。結合の向きも自由ではない。ガラスの中でも、ケイ素のまわりに酸素が四面体を組む形そのものは固定されていて、三個や五個で囲まれると位置エネルギーがはるかに大きくなる。乱れているのは、その四面体どうしの相対的な向きのほうだ2。だから層がすべる道がない。

すべりで逃がせない力は、いちばん弱い一点である、表面の目に見えない傷に集中する。 ひびが走り出すには、周囲の応力場が引張であることと、応力と傷の径の平方根の積が材料ごとの臨界値を超えることが要る3。だから、引張応力が同じなら、大きい傷ほど先にこの臨界値に達する。 そこからひびが一気に走り抜けて、割れる。曲がるという中間がない。これが「脆い(もろい)」ということだ。

実例:溶けたガラスを水に落として作る「プリンス・ルパートの滴」は、頭は 15 kN(およそ1.5トン重)の力にも耐えるのに、細い尾を指で折るだけで全体が爆発するように砕ける。外殻に強い圧縮がかかっていること、そして半球状の形が、この強さを説明するとされている3。頭部径約 6 mm の滴を調べた初期の研究は、表面の圧縮と軸方向の引張をともに 170 MPa 以下と報告した3。それよりやや大きい、頭部径 7.8 mm 以下の滴を偏光画像で調べた研究では、表面の圧縮が頭部で約 525 MPa、尾で 700 MPa、内部の引張が 300〜400 MPa、守っている圧縮層の厚みは 0.5〜0.85 mm と測られている3。ただし、この圧縮は万能の守りではない。尾を折って圧縮の殻を破ると、閉じ込められていた内部の引張応力が一気に解放され、局所的なひびでは済まず全体が砕け散る。表面を圧縮する戦略は、殻が破られると全体の破壊を招くという弱点を持つ。

強化ガラスは、この判定基準の裏返しを使う。表面をわざと圧縮しておけば、圧縮下にある微小な傷は、その圧縮が解かれるまで広がれない3。ただし守りが効くのは殻が無事なあいだで、代償は内側に閉じ込めた引張のほうにある。この構図はプリンス・ルパートの滴と同じである。

「強い」と「割れにくい(粘り強い)」はしばしばトレードオフだ。ガラスは硬いが脆い。多くの金属は柔らかいが粘る。脆さは、結合が弱いことの現れではない。Zachariasen は、ガラスの機械的性質が広い温度範囲で結晶と直接比較でき、強度が対応する結晶形を上回りうる実験的証拠もある、と書いている2。

金属ガラス:結晶格子の無い金属は、すべれずに割れる

「金属だからすべる・ガラスだから割れる」という対応は絶対ではない。同じ金属でも、非晶質(アモルファス)のまま固まる組成の合金を急冷して作る「金属ガラス」は、転位が働く規則正しい格子を持たない。非晶質合金の弾性率はおおむね通常の工業用金属と同程度なのに、室温の強度は組成が同程度の多結晶を大きく上回る4。室温のような低温で速く力を加える側では、通常の金属のようにはすべれず、変形が局所的な帯状のズレ(せん断帯)に集中する。そして単一相のものは大半の場合、引張でほとんど延性を示さないまま突然破断する4。一方で、金属ガラスの割れにくさ(靭性)には幅があり、構造用の結晶合金並みのものも、酸化物やケイ酸塩のガラス並みに脆いものもある4。

すべるか割れるかを分けているのは材質名ではなく、原子の並びと結合の性質だ。すべりやすさを大きく左右する条件は、主に二つある。動かせるすべり面があることと、結合が方向にこだわらないことである。金属ガラスは前者を大きく欠いた例で、結合は金属のままだが、転位が動ける規則正しいすべり面がない。ふつうのガラスは両方を欠く。ガラスには規則正しいすべり面がなく、しかも結合に方向がある。金属的な結合はこの点が違う。原子のつなぎ替えが、共有結合固体のような結合角の硬さにも、イオン結合固体のような電荷の釣り合いにも大きくは縛られないからだ4。

同じ金属ガラスでも、温度と負荷の速さで側が変わる。上で「引張でほとんど延性を示さない」と書いたのは低温・高速の条件でのことで、Pd–Ni–P 系の金属ガラスをガラス転移点付近まで温めてゆっくり引いた試験では、粘性流動で 1000% を超えて伸び、速く引くと伸びは 20% 程度まで落ちた4。荷重のかけ方でも側は変わる。一部の金属ガラスが冷間圧延や曲げでは塑性変形しうることは、古くから知られている4。Schuh らは、金属ガラスにも比較的急峻な延性–脆性遷移があり、それは一部の結晶金属で観察されるものと似ている、と書いている4。


出典4件
  1. G. I. Taylor「The Mechanism of Plastic Deformation of Crystals. Part I.—Theoretical」Proc. R. Soc. A 145, 1934. https://doi.org/10.1098/rspa.1934.0106 — 加工硬化の機構として転位の伝播を導入した。不純物が変形開始応力を上げる亜鉛単結晶の測定も引く。 ↩ ↩2

  2. W. H. Zachariasen「The Atomic Arrangement in Glass」J. Am. Chem. Soc. 54, 1932. https://doi.org/10.1021/ja01349a006 — ガラスを対称性と周期性を欠く三次元の網目とした。完全にランダムではないとも書いており、「連続ランダムネットワーク」は後年の呼び名である。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. K. V. Cashman ほか「Prince Rupert’s Drops」PNAS 119, 2022. https://doi.org/10.1073/pnas.2202856119 — 熱応力による破砕と急冷造粒の解析。滴の強さ・応力値・亀裂の進展条件は、先行研究に基づく導入部の整理である。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  4. C. A. Schuh, T. C. Hufnagel & U. Ramamurty「Mechanical Behavior of Amorphous Alloys」Acta Materialia 55, 2007. https://doi.org/10.1016/j.actamat.2007.01.052 — 金属ガラスの変形と破壊の総説。引張延性がほぼゼロとするのは単一相の場合で、延性を得る手法にも一節を割く。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。