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マテリアルズインフォマティクス・材料

マテリアルズインフォマティクスの課題:機械学習が効く所と過大評価

2026/7/4 (更新: 2026/10/11)

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目次
背景・問い・要点
背景

材料開発に機械学習を使う分野を、マテリアルズインフォマティクスと呼ぶ。組成式を入れると物性の予測値が返ってくるデモは、この分野の成果としてよく紹介される。そうしたデモや論文の多くは、誰でも無料で使えるオープンソースのライブラリを積み重ねた道具立てで動いている。ある仕事を回すために積み重ねる道具立てを、Web 開発でいう「技術スタック」と同じ用法で、スタックと呼ぶ。スタックの中心は、物質を数値ベクトルに変える特徴量化と、そのベクトルから物性を当てるモデルである。

デモの多くは、量子力学に基づく計算で物性を大量に求めた公開データベースの上で動いている。一方、企業の材料開発で手元にあるのは、件数が少なく、測定条件がそろわず、欠損の多い自社の実験データである。

本稿は、matminer・CrabNet・CGCNN などのオープンソースのスタックと、その性能を比べたベンチマーク Matbench、外挿での精度を測り直した Meredig らの論文、大規模な構造探索 GNoME と自律実験室 A-Lab の報告を例に取る。

問い

材料開発で、機械学習のスタックはどこで効き、どこで過大評価されるのか。

要点

難所はモデルよりも、その前後にある。 具体的には、データの量・一貫性・専有性、特徴量化で何を入力にしどう表すかの選択、そして予測を実験で検証して次のデータへ戻すループである。公開データで高い精度を出すモデルも、既知のデータのまとまりを丸ごと外して測ると精度が大きく落ちる。機械学習が効くのは、予測の不確実性を手がかりに次に作るサンプルを選ぶ逐次学習、計算コストの高い量子力学計算の代わりに大量の候補をスクリーニングする場面、均質なデータがある狭い系での内挿である。計算で安定と予測された候補が実際に作れるかは、実験で試すまで分からない。

モデル・例示

データのまとまりを丸ごと外して測ると、同じ予測の誤差が大きくなる

※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。

ある物性の値を、組成を表す一つの数 x(0〜1)から予測するとする。手元のデータは 30 件で、x が 0.1 付近・0.5 付近・0.9 付近の三つのまとまりに 10 件ずつ集まっている。物性の値は、0.1 付近で約 1.0、0.5 付近で約 2.0、0.9 付近で約 1.2 である。予測には、いちばん近い訓練データの値をそのまま返すだけの参照表を使う。

データを無作為に分けると、たとえば x=0.12 の 1 件が検証側に入る。訓練側には同じまとまりの残り 9 件があるので、参照表は 1.0 前後を返し、誤差は小さい。訓練データのまとまりの中を埋めるこの予測を、内挿と呼ぶ。

次に、0.5 付近のまとまり 10 件を丸ごと検証に回す。訓練側でいちばん近いのは 0.1 付近か 0.9 付近のデータなので、参照表は 1.0〜1.2 を返し、真の値 2.0 から 0.8 以上ずれる。0.5 は x の値では 0.1 と 0.9 の間にあるが、訓練データのどのまとまりからも離れている。そうした所を当てにいくこの予測を、外挿と呼ぶ。

同じ参照表を二通りに測ると、次の三つのことが分かる。

  1. 無作為に分けた検証では、検証のデータと同じまとまりの仲間が訓練側に残るので、測っているのは内挿の精度である。
  2. まとまりを丸ごと外した検証は外挿の精度を測り、同じ予測でも誤差がずっと大きく出る。
  3. 探したい組成が手元のデータのどのまとまりからも離れているなら、実際の使い方に近いのはまとまりを丸ごと外した測り方である。

スタックは何をしているか

中心は「物質をどう数値ベクトルにするか」だ。matminer はその特徴量化(featurization)ライブラリで、組成や結晶構造から原子半径・電気陰性度の統計量などを大量に生成する1。automatminer はそれを自動でパイプライン化する2。CrabNet は構造を使わず組成だけで予測するTransformerベースのモデルで、構造未知の探索初期に向く3。CGCNN4 や MEGNet5 は結晶構造をグラフ(原子=ノード、結合=エッジ)として扱うグラフニューラルネットだ。ただし「構造を使えば必ず勝つ」わけではない。13課題のベンチマーク Matbench では、グラフネットが記述子ベースの手法を上回るのはおおよそ1万サンプル以上で、それ以下の課題では記述子ベース(Automatminer)のほうが正確なことが多い。ただし原典は「課題の中身は効く」と自ら断っている。1,296 サンプルの PhDOS 課題(フォノン状態密度の最後のピーク周波数を当てる回帰)では MEGNet が Automatminer を明確に上回り、同じ課題で CGCNN のほうは Automatminer より誤差が大きい2。表現の優劣を第一に決めるのはデータ量だが、それだけでは決まらない。ただし未発見の物質は構造が分からないので、組成だけを入力とする手法にも実用の場がある3。

要するに、入力に何を使うか(組成だけ/結晶構造まで)と、それをどう表すか(手作りの特徴量/学習させた表現)という2つの軸があり、手元に何の情報があるかで選べる範囲が決まる。組成だけでも学習表現は組めるので(CrabNet は Transformer3、Roost は組成に対してグラフを使う2)、「グラフを使うには構造が要る」わけではない。モデル側の工夫が無意味だという話でもない。ただし、どの表現まで作れるかは手元のデータが先に決める。そして、この制約は動かせない。

用語メモ:DFT・内挿と外挿(この先で使う)
  • DFT(密度汎関数理論)は、量子力学に基づき、材料のエネルギーや安定性を実験なしに第一原理から計算する手法である。物性を机上で見積もれるが計算コストが高い。Materials Project や OQMD のような公開データベースは、この DFT を大量に回した計算結果を収めている。そのデータは手元の実験データに比べれば密で、欠損が少なく、実験の測定条件によるばらつきも無い。ただし網羅的ではなく、全件を一様な方法で計算したわけでもない。だから DFT のデータベースから作った課題は「いちばんばらつきの少ない易しい土俵」になる。公開ベンチマークには実験値の課題もあり、Matbench の 13 課題のうち 4 課題は実験値である2。
  • 既知データのまとまりの中や近くを埋めるのが内挿、どのまとまりからも離れた所を当てにいくのが外挿である。機械学習は内挿には強く、外挿には弱い。少数の自社データで未知の組成領域を狙う探索は本質的に外挿=当たりにくい、というのがこの後の話の骨子だ。

効く場所と過大評価される場所

「任意の物性を予測」というデモは、たいてい Materials Project6 や OQMD7 のような公開データベースの上で動いている。これらはDFT計算で生成した、密で欠損の少ないデータだ。ただし「網羅」でも「一様に整合」でもない。Materials Project の解説論文自身が、当時の収録は全体で 3万3千化合物あまりで、そのうちの大半は既知構造のデータベース(ICSD)に載っている化合物だと書いている。しかも材料のクラスごとに別の方法論(実験値の利用を含む)で計算しており、some of the data will be incorrect と自ら書く(誤りの混入は伏せられているのではなく、自動とクラウドソースで整合性を検証し、異常値の化合物にはサイト上で警告を出す運用になっている)6。ところが本稿が相手にするのは、その公開データベースではなく自社の実験データで回す場面だ。そこでは手元にあるのはせいぜい数十〜数百件、測定条件はバラバラ、欠損だらけで、しかも一番効く組成領域は社外秘である。ベンチマークで 0.9 台の R² を出すモデルは珍しくない。Meredig らが文献から集めた表には、鋼の疲労強度で R²=0.98、高分子の電子誘電率で 0.96、無機化合物の生成エネルギーで 0.93 という報告が並ぶ。だが同じ著者らは、鋼の疲労強度・超伝導 log(Tc)・熱電 log(zT) の3つのベンチマークに、従来の交差検証と「未知のクラスタを丸ごと外して測る」やり方(LOCO 交差検証)を並べて走らせている。すると相関 R は、鋼の疲労強度で 0.99 から 0.24 へ、超伝導 log(Tc) で 0.87 から 0.30 へ落ちる。残る熱電 log(zT) は従来の交差検証でも 0.52 どまりで、LOCO では 0.23 になる8。自社データで外挿になれば、同じ向きの過大評価が起きうる。どれだけ落ちるかは問題とデータの偏りしだいだ8。

MLが本当に効くのは、まず 予測の不確実性を手がかりに「次に作るべきサンプル」を提案する逐次学習(能動学習)だ。LOCO 交差検証を提案した Meredig らは、ML の理想的な用途を「物性の予測ではなく実験の優先順位づけ」と定式化している。ML で誘導した反復実験は標準的な高スループット・スクリーニングを上回りうる、というのがその結論だ8。

次いで効くのが、計算コストの高いDFTのサロゲートとして大量スクリーニングを回す場面だ。MEGNet は Materials Project の約6万結晶で生成エネルギーを学習し、その誤差は DFT 自身の誤差の範囲内に収まったと報告する5。一方、バンドギャップと弾性率のモデルは訓練データが 36,720 件と 4,664 件しか無く、生成エネルギーで学んだ元素の埋め込みを転移して訓練を速め、精度を上げている5。2023 年には Google DeepMind の GNoME が、グラフネットを大規模に訓練して既存の凸包より下の構造を 220 万件報告した9。既知の実験構造を集めたデータベース(ICSD)と照合すると 736 件が一致し、うち 184 件は計画の開始後の新発見だった9。ただし、実験材料化学者の Cheetham と Seshadri は、GNoME の 220 万件のうち安定と判定された構造の一覧(384,870 件)から無作為に 10 件を選んで調べ、10 件とも構造型を ICSD に載る既知の構造に同定できたと報告している。たとえば Cu₈P₄SrTm は、組成の違う CaCu₄P₂ と同じ構造と同定された。たいていは ICSD 側の空間群のほうが対称性が高く、両者はその差を人為的な原子の規則配列による低対称化と見ている。0 K の DFT 計算はエントロピーを入れないので、多くの無機材料の合成温度では乱れて並ぶはずの金属イオンを規則的に並べてしまう、というのが両者の指摘である。一方で、金属間化合物でよく知られた σ 相の構造型の中で新しい組成を見つけたことは、両者も評価している10。

その次が、すでにそこそこ均質なデータがある狭い系での内挿だ。逆に、まったく新しい材料クラスへ一度の予測で外挿して新物質を当てる、という期待は外挿の壁に阻まれる8。

もう一つの壁は合成可能性だ。「安定だと予測できること」と「実際に合成できること」は別問題で、DFTで安定と出た候補が現実に作れるとは限らない。計算側の近似はある。CGCNN は、準安定な窒化物が 0 K の計算では凸包から 0.2 eV/atom まで上に出ることと、対象のペロブスカイトに窒化物が含まれることを根拠に、凸包から 0.2 eV/atom 以内を「合成可能性あり」の閾値に置く4。CGCNN の著者らによれば、データベース全体の当たりは 18,928 件中 228 件である。そこで得た化学的知見で探索範囲を絞ると、当たりの密度はその7倍になる。閾値内の候補には PbTiO₃ など合成済みの化合物が含まれる、とも著者らは報告している4。だが、閾値内の候補が実際に合成できるかどうかは、実験で試して初めて分かる。つまりこの判定は、予測を実験で検証して次のデータへ戻すループの側に属していて、モデルの精度指標(MAE や R²)の側には現れない。

そのループを自動化した例が、GNoME と同じ 2023 年に報告された自律実験室 A-Lab である。Materials Project と Google DeepMind の安定性データから選んだ標的を 17 日間ロボットで合成し、2023 年の報告では 58 標的中 41 件の新規化合物を合成したとした11。ただし Leeman らは、当初成功とされた化合物の 3 分の 2 は、予測された規則配列の化合物の、すでに知られている不規則版である可能性が高いと指摘した12。著者らは 2026 年の訂正で、「新規」は予測基盤にとって新しいという意味で、科学にとって新しいとは限らないと改めた。誤って訓練データに含まれていた 1 件を議論から外し、回折を再解析すると、報告した 40 件の成功のうち 36 件が確認でき、4 件は判定不能だった。成功数は 57 標的中 36 件に改められている11。

前節で断ったとおりモデル側の工夫は無意味ではないが、難所はモデルよりも、その前後にある。具体的には、データの量・一貫性・専有性、特徴量化の選択、そして予測を実験で検証するループである。論文のリーダーボードが測るのは公開データ上での表現の優劣までで、自社データの量・一貫性・専有性、自社データでどの表現が作れるか、予測を実験で検証するループは測っていない。1NN は、訓練データの最近傍の値をそのまま返すだけの参照表である。先ほどの超伝導 log(Tc) の 0.30 は、同じ LOCO 交差検証で 1NN が出した 0.50 に届いていない。Meredig らは、銅酸化物への直接の外挿がその参照表に及ばなくても超伝導体の発見は効率化しうる、と付け加えている8。


出典12件
  1. Ward ら, matminer, Comput. Mater. Sci., 2018. https://doi.org/10.1016/j.commatsci.2018.05.018 — 組成や結晶構造から元素の性質の統計量などの記述子を生成する、pymatgen と連携する特徴量化の OSS。 ↩

  2. Dunn ら, Matbench と Automatminer, npj Comput. Mater. 6, 138, 2020. https://doi.org/10.1038/s41524-020-00406-3 — 同じ著者らによる 13 課題のベンチマークと自動 ML パイプライン。グラフネットが記述子ベースを上回るのは約 1 万サンプル以上とし、課題の中身も効くと断る。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. Wang ら, CrabNet, npj Comput. Mater., 2021. https://doi.org/10.1038/s41524-021-00545-1 — 組成だけで物性を当てる Transformer。28 ベンチマークのほぼすべてで既存手法に並ぶか上回ると報告するが、比較相手は組成だけを使う手法に限られる。 ↩ ↩2 ↩3

  4. Xie & Grossman, CGCNN, Phys. Rev. Lett., 2018. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.120.145301 — 結晶を原子と結合のグラフとして扱う畳み込みネット。ペロブスカイトの探索で、凸包から 0.2 eV/atom 以内を合成可能性の目安に置く。 ↩ ↩2 ↩3

  5. Chen ら, MEGNet, Chem. Mater., 2019. https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.9b01294 — 分子と結晶に使えるグラフネット。約 6 万結晶で生成エネルギーを学び、その元素の埋め込みをバンドギャップと弾性率のモデルへ転移する。 ↩ ↩2 ↩3

  6. Jain ら, Materials Project, APL Materials 1, 011002, 2013. https://doi.org/10.1063/1.4812323 — DFT 由来の公開材料 DB の解説論文。収録は 3 万 3 千化合物あまりで大半が ICSD 掲載、材料のクラスごとに別の方法論で計算し、一部のデータは誤りうると書く。 ↩ ↩2

  7. Saal ら, OQMD, JOM, 2013. https://doi.org/10.1007/s11837-013-0755-4 — DFT 計算の公開材料 DB。原論文の時点で 20 万を超える計算済みの結晶構造を収める。 ↩

  8. Meredig ら, Mol. Syst. Des. Eng. 3, 819–825, 2018. https://doi.org/10.1039/C8ME00012C — LOCO 交差検証で外挿の過大評価を示し、ML の用途を実験の優先順位づけと定式化する。反復実験の裏づけには共著者らの別論文と Xue ら・Ren らの実験を引く。筆頭著者ら 6 名は Citrine 社の所属。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  9. Merchant ら, GNoME, Nature 624, 80–85, 2023. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06735-9 — 大規模に訓練したグラフネットで凸包より下の構造 220 万件を報告。ICSD との一致 736 件は保守的な照合による下限で、うち 184 件は計画開始後の発見。 ↩ ↩2

  10. Cheetham & Seshadri, Chem. Mater. 36, 3490–3495, 2024. https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c00643 — GNoME の安定構造一覧 384,870 件から無作為に 10 件を調べ、10 件とも ICSD の既知の構造型に同定した点検。0 K の計算が規則配列を作ると指摘し、手法自体は否定しない。 ↩

  11. Szymanski ら, A-Lab, Nature 624, 86–91, 2023. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06734-w — 無機粉末を合成する自律実験室。2026 年の訂正で 57 標的中 36 件の実現(4 件は判定不能)に改め、「新規」は予測基盤にとっての新しさだとした。 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09992-y ↩ ↩2

  12. Leeman ら, PRX Energy 3, 011002, 2024. https://doi.org/10.1103/PRXEnergy.3.011002 — A-Lab で成功とされた化合物の 3 分の 2 は、予測された規則配列の化合物の既知の不規則版である可能性が高いとし、新材料は見つかっていないと結論する点検。 ↩

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。