マテリアルズインフォマティクス・材料
機械学習ポテンシャルとは?仕組み・速さの理由・学習範囲外の限界
- 機械学習ポテンシャル
- 第一原理計算
- 分子動力学
- DFT
- 外挿
- 能動学習
- 学習データ
- 局所性
- 対称性
- 構造緩和
- 代理モデル
- グラフニューラルネットワーク
- NequIP
- MACE
- M3GNet
- CHGNet
- MACE-MP-0
- OMat24
- GAP
- Deep Potential
- 外挿グレード
- ガウス過程
- 交換相関
- フォノン
- Summit
- ゴードン・ベル賞
目次
第一原理計算(DFT)は、量子力学から正確に材料を予測できる一方、原子数の3乗で計算が重く、ふだん扱う規模は数百原子・ピコ秒級にとどまっていた。もっと大きく、もっと長く計算したい実務からすると、この遅さは重い。そこで、DFTが一度出した答えを覚えておけば、次からは解き直さずに済むのではないか、という発想が生まれた。この発想を形にしたのが機械学習ポテンシャルである。英語の頭文字をとって MLIP(Machine-Learning Interatomic Potential)と呼ぶ。
MLIPはなぜDFTより桁違いに速く、なぜDFT並みの精度を保てるのか。その速さを何と引き換えに得ていて、どこまでなら予測を信じてよいのか。
MLIPは、電子の方程式を解かずに学習済みの関数を評価するだけで済み、局所性の設計で計算量がおおよそ原子数に比例するので、DFTより桁違いに速い。ただしその信頼性は学習データの届く範囲に縛られ、範囲の外ではモデル自身が外挿していると気づかないまま予測が外れうる。 精度には、学んだDFTそのものが外す領域という上限もある。だから実務では、外挿を予測とは別に判定し、危うい配置だけDFTで補って学習データを広げる能動学習が標準の手続きになっている。
原子を10倍にすると、DFTの手間は千倍、MLIPの手間は十倍になる
※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。
計算の手間が原子数とともにどう伸びるかを、説明用の数で確かめる。原子100個の系を1回計算する手間を、DFTとMLIPのそれぞれで1と置く。原子を1,000個に増やすと、手間が原子数の3乗で伸びるDFTでは10の3乗で1,000になり、手間がおおよそ原子数に比例するMLIPでは10になる。原子100個のときと比べて、速さの比は原子1,000個で100倍、原子10,000個で10,000倍に開く。
原子数を変えて手間を比べると、MLIPの速さについて二つのことが言える。
- 系が大きいほど、MLIPがDFTに対して得る速さの比は大きくなる。
- この比は手間の伸び方だけから出るので、MLIPの予測がDFTの答えにどれだけ近いかについては何も言わない。
後者を、原子の数を変えない場合で確かめる。ある結晶を室温付近の配置だけで学習したMLIPに、極端な高温で大きく乱れた配置を入れる。原子の数は同じなので、計算の手間は学習した配置のときと変わらない。だが入力は学習データの外にあるので、返ってくるエネルギーと力がDFTに近いかどうかは、手間の数からは分からない。
「解く」のをやめて、「学ぶ」
MLIPの考え方は、これまでとまったく違う。DFTは毎回、量子力学の方程式を一から解く。MLIPは解かない。代わりに、DFTがあらかじめ計算した大量の「原子配置とそのエネルギー・力」のペアを教師データとして機械学習モデルに覚えさせる。学習が済めば、新しい原子配置を入れるだけで、モデルがエネルギーと力を即座に予測する。DFTの代役(サロゲート=代理モデル)を、統計的に仕立てるわけだ1。
そもそも「ポテンシャル(原子間ポテンシャル)」とは、原子の配置から、その系のエネルギーを返す関数のことだ。古典的な分子動力学が使ってきたレナード–ジョーンズ型も、その最も素朴な一例にあたる。そして原子にはたらく力は、このエネルギーを位置で微分したもの(正確には、位置に関する勾配の符号を反転したもの)になる。MLIPはこの「配置→エネルギー」の関数そのものを学習する。モデルが微分可能なので、力はエネルギーの勾配として、エネルギーと矛盾しない形で得られる。力を直接出力する設計もあり、その場合はエネルギーとの整合が保証されない。この二つを「保存的(conservative)」「非保存的」と呼び分け、後者がフォノン予測で弱いという先行研究の知見を注記した論文もある2。
力まで出せることには実利がある。予測した力に沿って原子を動かせば、エネルギーが極小になる配置を探す構造緩和を、モデル自身で実行できるからだ。結晶の安定性を判定する場面では、仮置きの構造をこの緩和にかけてからでないと、エネルギーの比較そのものが噛み合わない。
この発想自体は新しくない。2007年、BehlerとParrinelloは、系全体のエネルギーを各原子の寄与の和に分解し、ニューラルネットワークで表す高次元の手法を示した。論文は、これが「任意の大きさの系でエネルギーと力を与え、DFTより数桁速い」と述べている3。数年後の2010年には、ガウス過程(カーネル法)で同種のことを行う GAP が現れた4。手法の系譜は、「電子を解かずに、量子力学の精度を」という発想から始まる。
なぜ、桁違いに速くなるのか
MLIPが速いのは、まず、電子の方程式を解かずに学習済みの関数を評価するだけで済むからだ1。そのうえで、二つの設計原理のうち局所性が、系を大きくしても計算量がおおよそ原子数に比例する性質を与える。もう一つの設計原理である対称性は、速さではなく学習効率を支える。
一つは、局所性だ。 ある原子にはたらく力は、遠く離れた原子ではなく、すぐ近くの原子たちでほぼ決まる。だからMLIPは、各原子について「半径いくつまでの近傍」だけを見て、その原子のエネルギー寄与を予測する。全体のエネルギーは、この局所的な寄与を足し合わせたものだ。原子を2倍にしても、見るべき近傍の数は原子ごとにほぼ一定だ。エネルギーを原子ごとの寄与の和として表す設計5なので、計算量はおおよそ原子数に比例する(near-linear)。BehlerとParrinelloの2007年の原典は、64原子の系でDFTより約5桁速いこと、そしてDFTと対照的に系の大きさに線形にスケールすることを、二つの事実として並べて述べている3。DFTの3乗と比べれば、大きな系ほど差は開く。
もう一つは、物理的な対称性の作り込みだ。 エネルギーは、系全体を平行移動しても、回転させても、同じ種類の原子どうしを入れ替えても、変わってはいけない。MLIPはこれらの不変性を最初から満たす構造をもつ5。物理的にありえない答えを構造として排除するので、少ない学習データでも素直に一般化しやすい。
近年は、この考えをグラフニューラルネットワークで洗練させた手法が主流だ。原子を点、近傍関係を辺とみなし、回転対称性を厳密に保ったまま情報をやり取りする NequIP6 や MACE7 がその代表格である。さらに、多様な材料に一つのモデルで対応する「万能(universal)」あるいは「基盤(foundation)」ポテンシャルも登場した。周期表の広い範囲をカバーする巨大なDFTデータで事前学習したもので、M3GNet8、CHGNet9、MACE-MP-010 などがある。Meta FAIR の OMat242 は少し毛色が違い、1億1千万件超のDFT計算からなるデータセットと、それで事前学習したモデル群の総称だ。これらの万能ポテンシャルは、局所性と対称性という設計原理を保ったまま、学習データの範囲を多様な化学系へ広げている。2007年に始まる高次元ポテンシャルの系譜は、現在ここに位置する。
速さの効果は劇的だ。MLIPはDFTより数桁(several orders of magnitude)速いとされ3、その後のレビューでも同じ整理が引き継がれている1。どれだけ速いかは系の大きさやDFTの設定に依るため一つの倍率には固まらないが、規模で見れば桁が変わる。2020年、Jia らは Deep Potential を使った分子動力学で、DFT並みの精度を保ったまま銅の1億2740万原子を、1日あたり0.8〜2.5ナノ秒の速さで動かしてみせた(ゴードン・ベル賞)11。幅があるのは精度の取り方によるもので、倍精度なら1日に0.8ナノ秒、混合半精度なら2.5ナノ秒である。ただしこれは Summit スーパーコンピュータをほぼ全系使った記録で、倍精度で91 PFLOPS=ピーク性能の45.5%にあたる。手元の計算機で出る数字ではない。DFTのよく使われる規模が数百原子・ピコ秒級だったことを思えば、桁がまるごと違う。
ただし、学んだ範囲の外では気づかないまま外れる
ここまでは良い話だ。だが、MLIPには原理的な但し書きがある。それは後から見つかったものではない。2007年の原典自身が、精度は学習データの精度に限られること、学習集合と大きく異なる構造へは外挿できないこと、カットオフのため長距離相互作用が当時の実装では入らないことを、同じ段落で明記している3。長距離相互作用は、のちの第3世代の高次元ニューラルネットワークポテンシャルが、原子ごとのニューラルネットワークで表した部分電荷を使って取り込んでいる5。
MLIPの精度には、上限が二つある。一つは参照そのものの上限だ。学ぶ「正解」はDFTが出した値だから、DFTが交換相関の近似ゆえに外す領域では、どれだけ忠実にDFTを再現しても現実とはずれる。強く相関した電子系のエネルギーや、分散力の取りこぼしがその代表である。もう一つの上限は、学習に使ったデータが、どれだけ広く現実をカバーしているかである。本稿が見るのはこちらだ。学習した配置に似た状況なら、DFT並みに正確に予測できる。だが、学習データの分布から外れた未知の配置になると、MLIPの予測は当てにならなくなる。見たことのない結晶構造、極端な温度や圧力、反応の途中の珍しい原子配置がその例である。しかも、モデル自身は「いま外挿している」と教えてくれない。外挿かどうかは、予測とは別に判定しなければわからない。
Podryabinkin と Shapeev は、外挿配置を検知し、その配置の量子力学計算をして再学習すれば外挿の問題は解けるとして、検知のための量(外挿グレード)を提案した12。その先の壊れ方は一様ではない。外挿の度合いに応じて誤差が大きくなる12こともあれば、エネルギーが異常に振れてシミュレーションそのものが早々に破綻することもある13。学習データの届く範囲の外側は補間ではなく外挿であり、性質の異なる不確かさを負う。
だからこそ、MLIPを実務で使う場面では「能動学習(active learning)」の手続きが標準になっている13。能動学習では、予測の不確かさを測り、危ういところに気づいたらそこだけDFTで計算し直して学習データに足す1213。学習データを広げる作業が、MLIP開発の中心になる14。
出典14件
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V. L. Deringer ほか「Machine Learning Interatomic Potentials as Emerging Tools for Materials Science」Adv. Mater. 31, 2019. https://doi.org/10.1002/adma.201902765 — MLIPが電子構造法に近い精度を桁違いの速さで与えることを概観したレビュー。 ↩ ↩2 ↩3
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L. Barroso-Luque ら(Meta FAIR)「Open Materials 2024 (OMat24) Inorganic Materials Dataset and Models」Nat. Comput. Sci. 6, 2026. https://arxiv.org/abs/2410.12771 — 1億1千万件超のDFT計算とモデル。保存的/非保存的はarXiv版が書く。 ↩ ↩2
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J. Behler & M. Parrinello「Generalized Neural-Network Representation of High-Dimensional Potential-Energy Surfaces」Phys. Rev. Lett. 98, 2007. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.98.146401 — 64原子で約5桁速く、線形に伸びると書く。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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A. P. Bartók ほか「Gaussian Approximation Potentials: The Accuracy of Quantum Mechanics, without the Electrons」Phys. Rev. Lett. 104, 2010. https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.104.136403 — ガウス過程で学習するもう一つの源流。 ↩
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J. Behler「Four Generations of High-Dimensional Neural Network Potentials」Chemical Reviews 121, 2021. https://doi.org/10.1021/acs.chemrev.0c00868 — 原子エネルギーへの分解、並進・回転・置換の不変性、第3世代の長距離項を解説した総説。 ↩ ↩2 ↩3
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S. Batzner ら「E(3)-equivariant graph neural networks for data-efficient and accurate interatomic potentials」Nat. Commun. 13, 2022. https://www.nature.com/articles/s41467-022-29939-5 — 回転対称性を保つ等変グラフNNで、少ないデータでも高精度。 ↩
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I. Batatia ら「MACE: Higher Order Equivariant Message Passing Neural Networks for Fast and Accurate Force Fields」NeurIPS, 2022. https://arxiv.org/abs/2206.07697 — 高次の等変メッセージパッシングで高速かつ高精度な力場を構成。 ↩
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C. Chen & S. P. Ong「A universal graph deep learning interatomic potential for the periodic table」Nature Computational Science 2, 2022. https://www.nature.com/articles/s43588-022-00349-3 — 周期表の広範をカバーする万能ポテンシャル。 ↩
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B. Deng ら「CHGNet as a pretrained universal neural network potential for charge-informed atomistic modelling」Nat. Mach. Intell. 5, 2023. https://www.nature.com/articles/s42256-023-00716-3 — 電荷情報を組み込んだ事前学習済み万能ポテンシャル。 ↩
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I. Batatia ら「A foundation model for atomistic materials chemistry」arXiv:2401.00096, 2023(査読版 J. Chem. Phys. 163, 2025). https://arxiv.org/abs/2401.00096 — 広範な材料化学に一つのモデルで対応する基盤ポテンシャル。 ↩
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W. Jia ほか「Pushing the Limit of Molecular Dynamics with Ab Initio Accuracy to 100 Million Atoms with Machine Learning」SC20, 2020. https://arxiv.org/abs/2005.00223 — 1億2740万原子を1日0.8〜2.5ナノ秒動かした。 ↩
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E. V. Podryabinkin & A. V. Shapeev「Active learning of linearly parametrized interatomic potentials」Comput. Mater. Sci. 140, 2017. https://arxiv.org/abs/1611.09346 — 外挿グレードで外挿を検知し、力の誤差との相関を示す。 ↩ ↩2 ↩3
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H. Xu, T. Cui ら「Evidential deep learning for interatomic potentials」Nature Communications 17, 2026. https://www.nature.com/articles/s41467-025-67663-y — 学習分布の外で精度が落ち、シミュレーションが破綻しうることと不確かさ検知の必要を論じる。 ↩ ↩2 ↩3
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Kulichenko, Nebgen, Lubbers ら「Data Generation for Machine Learning Interatomic Potentials and Beyond」Chemical Reviews 124, 2024. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemrev.4c00572 — MLIPの信頼性が学習データの網羅性に依存することを概観。 ↩
この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。