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マテリアルズインフォマティクス・材料

脆性破壊とは?キズから割れる原因と、ものづくりの対策

2026/6/25 (更新: 2026/10/14)

  • 脆性破壊
  • 破壊力学
  • 分子動力学
  • Griffith
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  • 応力拡大係数
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  • 表面エネルギー
  • 配位数
  • 周期境界
  • レイリー波速度
  • 娘き裂
  • 圧縮層
  • 切り欠き
  • 粘性減衰
  • 介在物
  • ガラス繊維
  • 割れ口
目次
背景・問い・要点
背景

金属は曲がり、ガラスは割れる。ほとんど変形せずに割れる壊れ方を脆性破壊という。ガラスのような脆い材料はふつうこの壊れ方をするが、ふだんは曲がってから壊れる鉄鋼のような金属も、低温などの条件しだいで脆性破壊を起こす1。脆い材料は、同じ材料でも試料ごとに割れる強さがばらつき、ひびは決まって材料の中のどこか一点から走り出す。

曲がる材料なら、壊れる前に変形が目に見える。脆い材料ではその前ぶれが小さく、ひびはいったん走り出すと、多くの場合そのまま材料を横切ってしまう。どこから割れるかが分かれば、割れにくい形や作り方を選べる。だから、ひびがどこで生まれるのかを先に知っておくことが、ものづくりの側では大事になる。

原子一つひとつにニュートンの法則を当てて時間を進める分子動力学を使うと、材料が壊れる瞬間を原子の目線で覗くことができる。本稿は、切り欠きを仕込んだ小さな結晶の板を2次元の分子動力学で引き裂いた計算と、破壊力学の出発点となった Griffith の論文を例に取る。

問い

脆い材料は、どこから、なぜ割れるのか。

要点

脆い材料は、全体の強さではなく、一番弱い欠陥のところから壊れる。 引っぱる力はキズや角の先端に集中する。Griffith は、き裂が伸びるときに解放される弾性エネルギーと新しくできる表面のエネルギーとを釣り合わせる基準を立て、割れる応力がキズの大きさのおよそ平方根に反比例することを導いた。切り欠きを入れた結晶の板を引き裂く計算でも、ひびは切り欠きの先端から開き、止まらずに板を横切る。だから設計は鋭い角を避け、製造は表面の傷や内部の異物を減らす。

モデル・例示

切り欠きを入れた結晶の板を引き裂く

下は、実際に走らせた分子動力学の計算だ。原子をきちんと並べた小さな結晶の板(720原子、三角格子のレナード–ジョーンズ結晶)の中ほどに、板幅のおよそ4割にわたって面状に結合を切った切り欠き(き裂の種)を一つ仕込んでおく。左右は周期境界にして端の自由表面を消してあるので、切り欠きが板の中で唯一の弱点になる。そして板の上下をつかんで、低温のまま、ゆっくり上下に引き離していく。 色は原子の“仲間の数”を表す。青はまわりを仲間に囲まれた内部の原子、赤は仲間を失った表面(=割れ口)の原子だ。

分子動力学:切り欠きから亀裂が走り、結晶が2つに割れるシミュレーション
実際に走らせた破壊のシミュレーション。引っぱると、板はしばらく伸びて耐えるが、やがて仕込んだキズから亀裂が開き、左右へ走って板を上下に裂いていく。色は原子の“仲間の数”で、青はまわりを仲間に囲まれた内部の原子、赤くなった原子が仲間を失った新しい割れ口だ。
720原子・2D・レナード–ジョーンズ・ポテンシャル/実コードで生成(再現可能)。

最初、板は引っぱりに耐えて伸びる。原子どうしの結合がバネのように伸びて、引っぱりに抵抗する。 だがある限界に達すると、切り欠きの先端から、ひびが生まれる。そして一度走り出すと、止まらずに板を横切り、真っ二つに割れる。割れ口に並んだ原子は、仲間を失って赤く光る。ひびが把持した端ではなく切り欠きから開いたことは、全行の開口量を測って確かめてある(開口が最大になるのは切り欠きの面)。計算は固定シードの決定論的なもので、同じ出力を再現できる。

この計算は2次元の理想化で、原子どうしの力も単純なモデルだ。現実の破壊は3次元で、もっと多様な欠陥や、引っぱる速さ・温度の効果が絡む。計算が与えるのは「どこから壊れるか」の直感であり、現実の材料の強さは実験で確かめる。

仕組みを数式で書くとどうなるか(クリックで展開)

引き裂きの中身を式にするとこうなる。式はすべて、上のシミュレーションの実装そのままである(単位はレナード–ジョーンズの換算単位=ε=σ=1\varepsilon=\sigma=1、打ち切り距離 rcut=2.5r_\text{cut}=2.5)。

  1. 原子間の力(レナード–ジョーンズ)。 距離 rr の2原子のエネルギー V(r)V(r) は反発の 1212 乗と引力の 66 乗の差。力はその傾き − dV/dr-\,dV/dr で、これが結合の「バネ」の正体である。
V(r)=4ε[(σr)12−(σr)6]F(r)=24εr[ 2(σr)12−(σr)6 ]V(r) = 4\varepsilon\left[\left(\frac{\sigma}{r}\right)^{12} - \left(\frac{\sigma}{r}\right)^{6}\right] \qquad F(r) = \frac{24\varepsilon}{r}\left[\,2\left(\frac{\sigma}{r}\right)^{12} - \left(\frac{\sigma}{r}\right)^{6}\,\right]
  1. 引っぱる(把持と一定ひずみ速度)。 板の下端の2行は固定し、上端の2行を毎ステップ一定量 Δ\Delta だけ持ち上げる。これが「ゆっくり一定の速さで引き裂く」の正体で、力ではなく位置で与える境界条件である(準静的=ゆっくり)。
y上端←y上端+Δy下端=一定(固定)y_\text{上端} \leftarrow y_\text{上端} + \Delta \qquad y_\text{下端} = \text{一定(固定)}
  1. 動かす(Velocity–Verlet+粘性減衰)。 把持されていない内部の原子は、加速度 a=F/ma=F/m に速度に比例する抵抗 −γv-\gamma v(粘性減衰)を加えて積分する。この減衰が熱を逃がして板を冷たく・脆く保つ。ここでは板を温めない。
v←v+12 (F−γv) dt,x←x+v dt,v←v+12 (F−γv) dtv \leftarrow v + \tfrac{1}{2}\,(F - \gamma v)\,dt,\quad x \leftarrow x + v\,dt,\quad v \leftarrow v + \tfrac{1}{2}\,(F - \gamma v)\,dt
  1. 割れ口を見つける(配位数)。 各原子について、最近接距離 aa の1.35倍以内にいる仲間の数 ZiZ_i を数える(rcutr_\text{cut} ではなく、第一近接だけを拾う短い半径である。このため内部で ZZ は6前後になる)。内部の原子は ZZ が大きく(青)、表面や新しい割れ口の原子は仲間を失って ZZ が小さい(赤)。色は強さではなく、このつながりの数を映している。
Zi=#{ j≠i  :  ∣xi−xj∣<1.35 a }Z_i = \#\bigl\{\, j \neq i \;:\; \lvert x_i - x_j \rvert < 1.35\,a \,\bigr\}

仕込んだキズ(き裂の種)は、その近くの原子の ZZ をあらかじめ下げておくことに等しい。引っぱると応力がその弱点に集中し、結合が次々と切れる。その結果、ZZ の小さい赤い帯(=割れ口)が、キズから板を横切って走る。

脆い材料は一番弱いキズから壊れる

脆い材料のひびがキズから始まるのは偶然ではない。引っぱる力は、キズや角の先端に集中する(応力集中)。ただし破壊力学の出発点となった研究が示したのは、その先にあるもう一段だ。Griffith は、応力集中の倍率がキズの絶対的な大きさにほとんど依らないことを、Inglis の数学的な解析を借りた計算と実測の両方で確かめた。だからこそ「最大応力が限界を超えたら壊れる」という当時の仮説では、キズが小さいほど金属が繰り返し荷重に強くなるという実測を説明できないと結論した。彼が代わりに置いたのは、き裂が伸びるときに解放される弾性エネルギーと、新しくできる表面のエネルギーとを釣り合わせる基準である。Griffith はこの基準から、割れる応力がキズの大きさのおよそ平方根に反比例するという関係を導いた2。だから脆い材料は、全体の強さではなく、一番弱い欠陥のところから壊れる。実際 Griffith は、この欠陥さえ無くせれば実用材料の強度は少なくとも10〜20倍になりうると書いている2。

同じ材料でも、中に含まれる欠陥の大きさは試料ごとにばらつく。そのため脆い材料の強度は「集団の中で一番弱い一点」で決まり、統計的にばらつく。この「最弱リンク」の考え方は Griffith より前からあり、のちに Weibull が確率分布として定式化した3。

ガラスがふだん割れるのも、目に見えないほど小さな傷からである。Griffith 自身、引いたばかりのガラス繊維がきわめて強く、数時間かけて強度が落ちていくことを測っている2。破壊力学はこの平方根則を、き裂まわりの応力が引張で、かつ応力とキズ寸法の平方根の積が材料ごとの限界値を超えたときにだけき裂が育つ、という条件として書く4。この積は、Irwin が 1957 年にき裂先端の応力場を表す「応力拡大係数」として整理した量の、書き方の一つである5。材料が脆性破壊に抵抗する力を表す指標は、広い意味で破壊靱性と呼ばれる1。

だからこそ、ものづくりはキズを異常に恐れる。

ひびの伝わり方は原子スケールで入り組む

ひびがキズから生まれて一気に材料を割る、というのは単純化した描像で、ひびの伝わり方そのものは、原子スケールで見るともっと入り組んでいる。Abraham らの原子スケールのシミュレーションは、せん断で引き裂く場合に、走っているひびの先へ新しいひび(娘き裂)が生まれ、レイリー波速度を超えて伝わる様子を再現している。ただしこれは二つの結晶を貼り合わせた弱い界面に沿う条件での結果であり、引き開き型の割れにそのまま当てはまる話ではない6。破壊の伝播は今も研究が続く現象だ。

出典6件
  1. 岸輝雄「脆性破壊」『改訂新版 世界大百科事典』平凡社・林邦夫「脆性破壊」『日本大百科全書』小学館(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E8%84%86%E6%80%A7%E7%A0%B4%E5%A3%8A-160969 — ふだん延性的な金属も低温などの条件で脆く壊れ、鉄鋼の低温脆性が例になる。脆性破壊への抵抗力の指標を破壊靱性と呼ぶ。 ↩ ↩2

  2. Griffith, A. A.「The Phenomena of Rupture and Flow in Solids」Phil. Trans. R. Soc. A 221, 1921. https://doi.org/10.1098/rsta.1921.0006 — 最大応力がキズの寸法にほぼ依らないことから最大応力仮説を退け、表面エネルギーを入れた基準で平方根則を導いた。 ↩ ↩2 ↩3

  3. Weibull, W.「A Statistical Theory of the Strength of Materials」Stockholm, 1939. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3086645/ — 確認は Quinn & Quinn のレビュー(2010)。最弱リンク理論を統計的に定式化した。理論自体はそれ以前からあった。 ↩

  4. Cashman, K. V. ほか「Prince Rupert’s Drops: An analysis of fragmentation by thermal stresses…」PNAS 119(31), 2022. https://doi.org/10.1073/pnas.2202856119 — 先行研究に基づく前提として、圧縮と引張の層、強化ガラスの割れ方、平方根の積による破壊条件を整理する。 ↩ ↩2 ↩3

  5. Irwin, G. R.「Analysis of Stresses and Strains Near the End of a Crack Traversing a Plate」J. Appl. Mech. 24, 1957. https://doi.org/10.1115/1.4011547 — き裂先端の応力場を表す量を応力拡大係数と名づけ、き裂を伸ばす力の平方根に比例するとした。 ↩

  6. Abraham, F. F.; Gao, H.「How Fast Can Cracks Propagate?」Phys. Rev. Lett. 84, 3113, 2000. https://research.ibm.com/publications/how-fast-can-cracks-propagate — 弱い界面に沿うせん断型のひびが娘き裂を生みレイリー速度を超えることを再現した。超えうること自体は、同論文が引く先行研究が示していた。 ↩

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。