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マテリアルズインフォマティクス・材料

材料探索の組み合わせ爆発:総当たりできない理由と、賢い探し方

2026/6/26 (更新: 2026/10/11)

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目次
背景・問い・要点
背景

材料の性質は、何でできているかと、原子がどう並んでいるかで決まる。それなら、ありうる組み合わせを片っぱしから作って試し、いちばん成績の良かったものを選べばよいように思える。だが、材料を一つずつ合成し、結晶を整え、性質を測るやり方は、速くは進まない。どれだけ手順を急いでも、一日に確かめられる材料は数えるほどにとどまる。本稿は、深層学習で安定な結晶構造を大規模に洗い出した GNoME と、絞り込みに使う機械学習モデルを共通のテストセットで比べる Matbench Discovery を例に取る。

問い

材料の候補は、作って試し切れる数なのか。試し切れないなら、何が候補を絞るのか。

要点

材料の候補は、安定な元素80種類から混ぜる元素を5つ選ぶだけで約2,400万通りあり、比率と原子の並べ方を掛けると、作って試し切れる数ではない。 そこで、作る前に計算で当たりを絞り、その結果を次の候補選びに戻す探索が要る。この探索は、それまでの研究を基準に安定と言える構造を220万個規模で洗い出したが、絞り込み役のモデルの誤検出の割合はモデルによって数倍違い、土台の計算も実験値から系統的にずれる。

モデル・例示

80種類の元素から混ぜる元素を選ぶだけで、候補は千万を超える

材料に使える元素の目安として、周期表で安定な元素(安定同位体を1つ以上もつ元素)を数えると80種類になる1。 材料は普通、それらを組み合わせて作る。では「どの元素を混ぜるか」を選ぶ場合の数はいくつになるか。

⚠ 概念図:棒の長さは実比率ではない 80種類から「混ぜる元素」を選ぶ組み合わせ 2元素 約 3,200 通り 3元素 約 8万 通り 4元素 約 160万 通り 5元素 約 2,400万 通り(5元素を選ぶだけで) さらに ×(混ぜる比率)×(原子の並べ方) = 天文学的な数。作って試し切れる量ではない。
「どの元素を混ぜるか」を選ぶだけで爆発する。比率と並べ方を掛けると、数は文字どおり天文学的になる。
数値は C(80,k) の厳密計算だが、棒の長さは圧縮した目盛りで、値にも対数にも比例していない。(作図:AI)

「混ぜる元素を選ぶ」だけの場合の数を数えると、次のようになる。

  • 2元素:約 3,200 通り
  • 3元素:約 8万 通り
  • 4元素:約 160万 通り
  • 5元素:約 2,400万 通り

そして、これはまだ「どの元素か」を選んだだけだ。実際の材料は、ここに

  • 混ぜる比率(A:B:C を 1:1:1 にするか 2:1:3 にするか……無数)
  • 原子の並べ方(同じ成分でも結晶構造が違えば別物。ダイヤと黒鉛を思い出そう)

が掛け算で乗ってくる。

これを作って試す速さと比べる。仮に1時間に1個試せても、1年で約 8,760個。4元素の160万通りを試すだけで 約180年かかる。比率や構造まで入れたら、宇宙の年齢でも足りない。

作って試すのは、絶望的に遅い

混ぜる元素の選び方に、比率と原子の並べ方を掛けると、候補の数はあっという間に天文学的になる。参考までに、炭素・窒素・酸素・硫黄で最大30原子までの分子に限っても、種類は 10の60乗 を超えると見積もられている2。無機材料も、桁こそ違えど「数え切れない」点は同じだ。

数が多いだけなら、速く試せばいい。だが現実の実験は遅い。 ひとつの材料を合成し、結晶を整え、性質を測る。この手順で一つずつ作って確かめるやり方では、どんなに急いでも一日に数えるほどしか進まない。

実際、人類がこれまでに実験で結晶構造を決めてきた物質を集めた無機結晶構造データベース(ICSD)でも、実験由来の登録は30万件弱の規模だ3。ありうる空間の、ごくごく一部しか、私たちはまだ覗いていない。

計算で当たりを絞り、次の一手を選ぶ

ここで詰まる。全部は試せない。でも、宝はどこかにある。

この行き詰まりを破るのが、コンピュータの役割だ。やることは大きく2つ。

  1. 作る前に、計算で“当たり”を絞る。物理法則やデータから「これは良さそう/ダメそう」を予測し、実験する候補を一気に減らす。公開データベースは、この計算(DFT)による物性の先読みを蓄積したものだ4。近年ではこれを深層学習と組み合わせ、それまでの研究を基準にすれば安定と言える構造を220万個規模まで洗い出した例も報告されている(うち38万1000件が、更新後の凸包に載る、つまり凸包からの距離がゼロの新規材料とされた)5。ただし、この成果を新材料の発見として読むことには、実験の材料化学者から公刊の批判がある6。さらに著者らは、この手法が訓練データに無かった5元素以上の構造でも当てられたと報告している5。安定同位体をもつ80種類の元素から選ぶとすると、5元素以上の組み合わせは、元素の選び方だけで2,400万通りを超える1。

    絞り込み役のモデルどうしを同じ土俵で比べるには、共通のテストセットが要る。それを用意したのが Matbench Discovery である。ここでいう適合率(precision)とは、「安定」と予測した候補のうち、本当にDFTでも安定だった割合のことだ。誤検出が出る理由も、同じフレームワークが説明している。凸包から 0 eV/atom という判定境界のすぐ近くでは、エネルギーの回帰精度が高いモデルでも偽陽性が出やすいのだという7。Matbench Discoveryのリーダーボードでは、上位の PET-OAM-XL などが0.93前後に達する。一方、以後の再提出がない2023年提出のCHGNetの登録では0.51にとどまる。「安定」と予測した候補の半分近くが誤検出である7。どのモデルを絞り込み役に据えるかで、次のDFT計算に回る候補のうち誤検出の割合は数倍変わる。

    さらに、「精密な」計算段階として使われるDFTも、公開データベースの多くが土台にするGGA(PBE)レベルでは実験値から系統的にずれる。経験補正をかける前の素の値で、ずれは生成エネルギーで平均 +131 meV/atom、平均絶対誤差は約 160 meV/atom と報告されている。公開データベースが出しているのは経験補正をかけた値だ。原典が同じ型の補正を当てても、平均絶対誤差は約100 meV/atom残る。原典が実験値と突き合わせた部分集合では、素の PBE を素の PBEsol へ替えても同程度に悪く、ずれは縮まない。縮めているのは、一段上のメタGGA(r²SCAN)の水準で学習した基盤 MLIP でエネルギーを計算し直すことのほうだ。原典はこれを、データベース全体をメタGGAで計算し直す代わりの手として置いている。それでも、絞り込みの各段階がどれも近似にとどまることに変わりはない8。

  2. 賢く次の一手を選ぶ。闇雲ではなく、「次にどれを試すと一番学べるか」を選んでいく。GNoME の220万個も、一括で当てたのではなく、6ラウンドの能動学習を回した結果だ。モデルで絞った候補のエネルギーを DFT で計算し、その結果を次のラウンドの訓練データに戻す。当たりの割合は構造・組成それぞれ6%未満/3%未満から始まり、反復のたびに上がって最終的に構造から出発した場合で80%超、組成だけから出発した場合は1組成あたり100構造を試して33%超に達したと報告されている5。反復そのものが効いている。ただしこの「当たりの割合」は、GNoME が自分で作った候補集合に対する値で、上の Matbench Discovery のような共通のテストセットで測った値ではない。

こうして「材料を、情報と計算の力で探す」流れは、しばしば「マテリアルズインフォマティクス」と呼ばれる。ただしこの言葉が指す範囲は広く、人によって使い方も違う。本稿が見たのは、“計算で候補を絞り込む”その入り口にとどまる。


出典8件
  1. Wikipedia「Stable isotope」. https://en.wikipedia.org/wiki/Stable_isotope — 安定核種を1つ以上もつ元素は80種類。本文はこの数を探索範囲の目安に使い、組み合わせ数 C(80,k) は初等的な計算による。 ↩ ↩2

  2. Bohacek, McMartin, Guida, Med. Res. Rev. 16(1), 1996. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/%28SICI%291098-1128%28199601%2916:1%3C3::AID-MED1%3E3.0.CO;2-6 — 10^60超の見積もりの代表的な出典。論文本文は購読制で未到達で、数は条件つきで再掲する総説(Del Moral-Morales ら, 2026)で確かめた。 https://doi.org/10.1007/s10822-026-00850-1 ↩

  3. FIZ Karlsruhe「About ICSD」(リリース2026.1). https://icsd.products.fiz-karlsruhe.de/en/about/about-icsd — 登録335,032件から理論構造35,221件を除いた299,811件が実験由来で、本文の「30万件弱」はこの側を指す。 ↩

  4. Jain ほか「Commentary: The Materials Project: A materials genome approach to accelerating materials innovation」APL Materials, 2013. https://doi.org/10.1063/1.4812323 — 既知の無機材料の物性を DFT 計算で先読みし公開する取り組み。 ↩

  5. Merchant ほか「Scaling deep learning for materials discovery」Nature 624, 2023. https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9 — 6ラウンドの能動学習で220万構造を安定と判定し、うち38.1万件が更新後の凸包に残ると報告。訓練に無い5元素以上も当てたとする。 ↩ ↩2 ↩3

  6. Cheetham, Seshadri, Chem. Mater. 36, 2024. https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c00643 — GNoME の新材料の無作為な小標本を調べ、新規性・信頼性・有用性を兼ねる化合物の証拠は乏しいと書く。 ↩

  7. Riebesell ほか, Nature Machine Intelligence 7, 2025. https://doi.org/10.1038/s42256-025-01055-1 — 判定境界の近くでは回帰精度の高いモデルでも偽陽性が増えると示す。2026年8月2日のリーダーボードの適合率は PET-OAM-XL 0.929、2023年登録で再提出のない CHGNet 0.514。 https://matbench-discovery.materialsproject.org/ ↩ ↩2

  8. Reents, Bercx, Pizzi, arXiv:2607.18092, 2026. https://arxiv.org/abs/2607.18092 — 素の PBE の生成エネルギーは実験値より平均+131 meV/atom 高く、経験補正後も MAE 約100 meV/atom 残る。素の PBE と PBEsol は同程度に悪く、r²SCAN 学習の基盤 MLIP で縮む。 ↩

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。