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Physical AI

人型ロボット、BMW工場で実働 デプロイの意味を問う

2026/7/28 (更新: 2026/8/15)

目次
【課題】「デプロイ済み」が覆い隠す実態の差Figureは実働、テスラは未稼働と公言【手段】Figureの実働記録とEpochの横断調査を比較企業の自己申告と第三者の速度評価を突き合わせる
※概念図(課題→手段):「デプロイ済み」は一様ではない
要点

2025年から2026年にかけて、人型ロボットはデモ映像の域を超え、実際の生産現場に長期間滞在した事例を残した。FigureのF.02はBMWのサウスカロライナ工場で10時間シフトを週5日こなし、日々の稼働6カ月ぶん・1250時間超で、9万個超の部品投入により3万台超のBMW X3の生産に寄与した(「11カ月」は立ち上げを含む配備全体の期間)1。BMW も自社名義の発表で同じ台数を確認し、後継機Figure 03の投入を発表した2。だが同じ時期、テスラのイーロン・マスクCEOは決算会見で、自社工場でのOptimusの稼働は「まだ研究開発段階」であり「実質的な稼働ではない」と認めた3。さらにEpoch AIの独立調査は、ロボットの多くが人間より3〜10倍遅く、複雑な作業では成功率が落ちる。鍵を挿して回す、ピーナッツバターを塗るといった家庭内の高精度作業を集めた外部課題「ロボット・オリンピック」では、Physical Intelligenceの成功率が平均52%だった4。この「信頼性を最適化しない条件で」という条件付けと task progress 72% は同社自身の記述による5。信頼性はタスクの複雑さに強く依存する、というのが同調査の指摘だ4。「デプロイ済み」という言葉は、内実を問わなければ意味をなさない。

FigureがBMWで残した数字は具体的だが、裏が取れるのは一部だ

Figure AIは2025年11月、自社の人型ロボットF.02がBMWグループのサウスカロライナ州スパータンバーグ工場で担った作業の実績を公表した1。内容は、車体工程でシート状の金属部品をラックから取り出し、溶接治具に配置するというピック・アンド・プレース作業だ。Figureはこの取り組み全体を「11カ月の配備」と表現している。機体の立ち上げから6カ月で工場へ納入して試験を開始し、10カ月で実稼働ラインへの本格投入に至った。その期間に10時間シフトを月曜から金曜まで続けた結果、累計1250時間超の稼働9万個超の部品投入、推定120万ステップ・200マイル超の移動を記録し、3万台超のBMW X3の生産に寄与したという。ハードウェアの故障は「最小限」で、前腕部が最も故障しやすい箇所として特定された。これはデモ映像ではなく、実際の生産ラインを回り切った記録であり、数字も細かい。ただし「11カ月」は配備全体の期間で、日々の稼働は6カ月分である——Figure 自身が Within 10 months, we launched full deployment on an active assembly line Six months of daily runtime と書き分けている。1250時間を10時間シフトで割れば125営業日≒6カ月で、この数字とも合う。BMWグループ自身も2026年6月の発表で、F.02が10カ月にわたり3万台超のX3生産を支えたことを公表した上で、後継機Figure 03を同じ工場の物流工程に投入すると発表している2。ただしこれは独立の計測ではない——当該リリースはBMW広報の名義で出たものだが、Figure社CEOの談話を引いており、台数もFigure公表値と同一である。ただしBMW自身の語は一定しない——同じ発表で「ボディショップでのpilot(試行)を完了した」と書く一方、地の文では「a successful deployment」とも呼んでいる2。「デプロイ済みとは何か」は、発注元の側でも一語に定まっていない。ただしBMW側の発表に稼働時間・部品数・サイクルタイム・精度といった詳細数値はなく、それらはFigure側の開示にのみ依拠している。

だが作業は一つに絞られ、介入の実績値は非開示だ

その実績の中身を見ると、対象は極めて狭く定義された単一タスクだった。総サイクルタイム84秒(うちローディング37秒)という要求、シフトあたり99%超の配置精度という目標、シフトあたりの人間介入ゼロという目標、2秒以内に5mmの精度で位置合わせするという要求——これらはすべて厳格に規定された条件であり、開示された範囲では作業は仕様で固定されている。判断範囲を自律的に広げた形跡は示されていない1。しかもこの3つのKPIは、いずれも要求値・目標値として示されたものだ(原文は The requirement was 84 seconds total, 37 seconds load time / Our target was > 99% success per shift / The goal was zero per shift)。達成値はどれも公表されていない。 サイクルタイムも配置精度も、シフトあたり実際に何回の介入が発生したかも開示がなく、人手を借りずに1250時間を回り切ったのかどうかは、開示された範囲では確認できない。BMWの発表もこの位置づけを明確にしている。人型ロボットは「既存の自動化を補完するもの」であり、その可能性は「単調、人間工学的に負担が大きい、あるいは安全上重要な作業」に特にあるIts potential lies particularly in)とする。仕分けた部品は、組立作業者へ「順序通りに」(just in sequence)供給されるとしている2。自律的なエンドツーエンドの生産プロセスは、どちらの発表にも登場しない。

同じ時期、テスラのCEOはOptimusの実態を認めた

Figureの発表とほぼ同じ時期に、対照的な出来事があった。2026年1月28日のテスラ決算会見で、Optimusが自社工場で何台稼働し生産作業を担っているかを問う質問に対し、マスクCEOは次のように答えている。「まだ研究開発段階です。工場でOptimusに基本的な作業をさせたことはあります。ただ新しいバージョンへ更新するたびに旧バージョンを廃止しています。自社工場で実質的な意味では使われていません」3。さらに「それよりも、ロボットに学習させるという意味合いが強い」とも述べ、「有意と言えるOptimusの生産量は、おそらく今年(2026年)末までは見込んでいない」と続けた3。何年にもわたって公開されてきたOptimusのデモ映像とは裏腹に、自社の決算会見という最も公式な場で、CEO自身が「実質的な稼働ではない」と明言したことになる。Figureが具体的な数字を並べたのと同じ期間に、業界を代表するもう一方のプレイヤーはその不在を認めた。

Epoch AIの調査が示す、業界全体に共通する落差

この落差は個別企業の話にとどまらない。Epoch AIが2026年2月に公表した調査「Where Autonomy Works」は、産業・家庭・移動の各領域(原典は industrial, household, and navigation)を対象にしている。タスクを5段階(初期研究段階から商用デプロイまで)に分類し(同調査は form-factor agnostic で、ロボットを格付けしてはいない)、信頼性・速度・コスト・環境移行性を横断的に評価した4。結論は端的だ。「デモで解決済みに見えるタスクも、デプロイ環境では脆弱なことがある」。多くの公開デモは特定のタスク・特定の環境向けに調整されたものであり、別の環境への移行能力が証明されていない4。速度面では、ロボットは人間より3〜10倍遅いのが典型だという。ただし同調査は、速度を配備の主因とは見ていない。見出しは Speed is not solved, but is not the main bottleneck to deployment で、稼働時間の長さが遅さを埋め合わせるとする。真の障壁は Transfer is the bottleneck that separates demos from deployment と別に名指ししている。洗濯物畳みでは、Physical Intelligence(PI)とFigureの場合、タオルのような単純な品目で約5倍遅く、ジーンズはPIで10倍以上、裏返しのTシャツに至っては約20倍かかる。ゴミの除去(後述のLokiの車輪型ロボット)は10倍遅く、鍵の挿入は5倍遅い4。信頼性面でも同じことが言える。Physical Intelligenceが取り組んだ外部課題「ロボット・オリンピック」は、鍵を挿して回す、ピーナッツバターを塗る、油汚れのフライパンを洗うといった家庭内の高精度作業を集めたものだ(課題の内訳はEpochではなく出題側の記述による)。ここでは同社自身が、信頼性を最適化しない条件での成功率が平均52%(task progress は72%)と報告しており5、Epoch も52%を引いている4。出題側の評価はむしろ逆で、3カ月で残る課題がほぼ制覇されたのは想定外に速く、課題が易しすぎたと書いている6。一方で、鳩目に靴紐を通す作業(ByteDance GR-RL、83%。ただし人間の約5倍遅く、他作業への転移は示されていない)や、Tシャツ・短パンの畳み(PI、95%。ジーンズなど難しい品目では75%に低下する)では高い成功率が報告されている。同じ「畳む」でも品目が難しくなれば数字は落ちるように、結果はタスクの中身で大きく変わる4。さらに同調査は、長期の実運用を掲げる事例でも遠隔操作への依存が残ることを指摘する。例に挙げられたLoki Roboticsのゴミ除去ロボットは人型ではなく片腕の車輪型で、ゴミ袋を自分で閉じることはできない。同社はキャンパスやオフィスで8時間シフトを6カ月超にわたり回したと主張する一方、多くのエッジケースで遠隔操作が必要だったと自ら注記している4。稼働期間の長さは、その間ロボットが自律していたことを意味しない。

「デプロイ」には常に条件が付く

三つの事例を並べると、単純な結論には落ち着かない。Figureの実績は本物であり、発注元であるBMW自身も生産台数と稼働期間を公表している以上、単なる誇張とは言えない12。同時に、その実績は単一の狭いタスクを、厳しい仕様と人間の監視付きで達成したものだ。テスラの事例は、同じ「人型ロボット」というカテゴリーの中でも、デモと実配備の距離がどれほど開きうるかを示している3。Epoch AIの調査は、その距離が偶然ではなく業界に広く共通する構造だと裏付ける4。この3つを踏まえると、「デプロイされた」という報告には、次の質問が常に必要になる。具体的にどんな作業か。人間の介入はどの頻度で発生するか。人間や既存の自動化と比べて速度と信頼性はどうか。この問いに答えられない「デプロイ」報告は、まだデモの延長線上にあると考えたほうがよい。

この報告を、どう割り引くか

Figureの数字は同社自身が公表したものであり、BMWによる追認はあるものの、成功事例として編集された発表であることは念頭に置く必要がある。介入回数の具体的な内訳や失敗事例の詳細までは公開されていない。Epoch AIの調査は2026年2月時点のスナップショットであり、ロボティクス分野の進展は速い。同調査が挙げた個別システムの性能は、すでに改善している可能性がある。テスラの発言はOptimusとテスラ社に固有の事情であり、人型ロボット全般への評価として一般化するのは誤りだ。同じ期間にFigureがBMWで残した実績は、その逆の直接的な反証になっている。

出典6件
  1. Figure AI, “F.02 Contributed to the Production of 30,000 Cars at BMW,” 公式プレスリリース, 2025年11月19日公開。BMWグループのスパータンバーグ工場でF.02が10時間シフトを週5日こなし、日々の稼働は6カ月ぶん(原文 Six months of daily runtime。全体の「11カ月の配備」は立ち上げから6カ月で納入・試験開始、10カ月で実稼働ラインへ本格投入という envelope)で、1250時間超の稼働、9万個超の部品投入、推定120万ステップ・200マイル超の移動を記録して3万台超のBMW X3の生産に寄与したと報告している。84秒のサイクルタイムや99%超の配置精度など厳格な作業目標、シフトあたりの人間介入回数のKPI定義(実測値は非開示)、前腕部を最多故障箇所とする「最小限」のハードウェア故障率も開示し、この実績を踏まえてF.02を退役させ後継機Figure 03へ移行すると発表した。https://www.figure.ai/news/production-at-bmw 2 3 4

  2. BMW Group, “BMW Group Advances the Use of Physical AI in Production with Figure 03 Project in Spartanburg,” 公式プレスリリース, 2026年6月25日公開。Figure 02が10カ月にわたり3万台超のBMW X3の生産を支えたと述べた上で(「11カ月」はFigure側の表現で、BMW側の記載は over ten months=その期間にわたって、の意)、後継機Figure 03を同じスパータンバーグ工場の物流工程(未整列の部品をシーケンストロリーに仕分ける作業)に投入すると発表している。人型ロボットは既存の自動化を補完するものとし、その可能性は単調・人間工学的負担・安全上重要な作業に特にあるとする(Its potential lies particularly in——用途をそこに限定する方針を宣言してはいない)。仕分けた部品は組立作業者へ just in sequence で供給されるとしている。https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0458778EN/bmw-group-advances-the-use-of-physical-ai-in-production-with-figure-03-project-in-spartanburg?language=en 2 3 4 5

  3. Tesla, Inc. 2025年第4四半期決算会見の書き起こし, 2026年1月28日。テスラ自社工場でOptimusが何台稼働し生産作業を担っているかを問う質問(書き起こしではテスラIRの Travis Axelrod が読み上げる形で記載)に対し、イーロン・マスクCEOが「まだ研究開発段階」「工場で基本的な作業をさせたことはあるが、新バージョンへの移行のたびに旧版を廃止するため自社工場で実質的な意味では使われていない」「それよりロボットに学習させる意味合いが強い」「2026年末より前に量産と呼べる規模のOptimus生産は見込んでいない」と述べた発言記録。https://www.fool.com/earnings/call-transcripts/2026/01/28/tesla-tsla-q4-2025-earnings-call-transcript/ 2 3 4

  4. Yann Rivière, Jean-Stanislas Denain, “Where Autonomy Works: Evaluating Robot Capabilities in 2026,” Epoch AI調査レポート, 2026年2月10日公開。産業・家庭・移動の各領域(原典は industrial, household, and navigation操作=manipulation はこの3領域を横断する能力であって領域名ではない)のタスクを5段階の成熟度で分類し(form-factor agnostic を明言しており、ロボット自体は格付けしない)、信頼性・速度・コスト・環境移行性を横断評価した。ロボットは人間より3〜10倍遅いのが典型である(洗濯物畳みはPIとFigureでタオル等の単純品目が約5倍、ジーンズはPIで10倍以上、裏返しのTシャツは約20倍、ゴミ除去10倍、鍵の挿入5倍)ことや、Physical Intelligenceの「Olympic」操作タスクの成功率が平均52%であることを示し(Reliability across PI's Olympic tasks averaged around 52%.「信頼性を最適化しなかった条件で」という条件付けと task progress 72% は Epoch には無く、PI 自身の記述5)、「デモで解決済みに見えるタスクもデプロイ環境では脆弱」「移行能力が明示的に示されない限り前提とすべきではない」と指摘するとともに、長期の実運用を掲げるシステムでも遠隔操作への依存が残る事例(Loki Roboticsのゴミ除去ロボットは人型ではなく片腕の車輪型で、キャンパス・オフィスで8時間シフトを6カ月超回したと同社が主張する一方、多くのエッジケースで遠隔操作が必要だったと注記している)を報告している。https://epoch.ai/publications/where-autonomy-works-evaluating-robot-capabilities-in-2026 2 3 4 5 6 7 8 9

  5. [context] Physical Intelligence, “Moravec’s Paradox and the Robot Olympics”(公式ブログ)。課題は Benjie Holson が提案した外部課題で、PI 自身が the tasks were not selected by us と書いている(内訳の逐語は spreading peanut butter, washing a greasy pan, putting a key in a lock, and turning socks inside-out)。成績については We did not do everything possible for the highest success rate と断ったうえで on average they have a success rate of 52% and a task progress of 72% と報告する。本稿の「信頼性を最適化しない条件で」「task progress 72%」はこの記述に拠る(Epoch 側には無い)。https://www.pi.website/blog/olympics 2 3

  6. [context] Benjie Holson, “Physical Intelligence Wins the Olympics: Deep Dive,” General Robots(Substack), 2026年1月22日。出題者本人による講評I did not expect these events to happen this quickly とし、To have done all of them in 3 months means that the state of the art is moving way faster than I expectedI feel like we need more challenges given that these were clearly too easy と書いている。https://generalrobots.substack.com/p/physical-intelligence-wins-the-olympics

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