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個人開発の売上分布——流通は技術と別枠で必要な変数

2026/7/4 (更新: 2026/8/12)

「いいものを作れば、人は来る」。エンジニアが最も信じたい話だ。Paul Graham の書き方はもう少し慎重で、離陸するかしないかの二択で考える起業志望者は多いが実際に離陸するのは創業者が離陸させるからだ、たまたま自力で伸びたものも一握りはあるだろうがたいていは何らかの押しが要る、という1。データも同じ方向を指している。ただし、その逆張り——「作るより届ける方が大事」——もまた、決まり文句として安く消費されがちだ。データが実際に何を示し、何を示さないのかを、一段ていねいに分けて見たい。

埋もれるのが「ふつう」である

個人開発のリリース後の分布は、残酷なほど一方向を指す。モバイルアプリでは、売上の前段として「そもそも届いているか」——ダウンロード数——を見る。2023年時点で、大手を含む全アプリを対象にした集計でさえ、月100件以上ダウンロードされたアプリに限って約半数が月100〜1,000件にとどまり、8割は月1万件未満だった。しかもこの集計は、月100件に届かない大多数を最初から含んでいない——つまり実際の分布はこれより厳しい。頂点の薄さも同じ集計に出ている。月100万〜1,000万件の帯は全体の0.5%で、Twitter や TikTok のような名の知れたアプリはここにいる。月1,000万件を超えるのは、世界中で21本だけだ2。大手を母集団に入れたままこの形なのだから、個人開発だけを切り出せば分布はさらに下へ寄る。

Steamのインディーゲームも収益は極端な上位集中で、大手インディー(Triple-i)がインディー売上の53%を占める一方、趣味開発者は8%にとどまる。2024年1〜9月のインディー売上は総額で約40億ドル。それを、同期間に Steam へ出た13,007本——その98.9%がインディーだ——が分け合っている3。うち『Black Myth: Wukong』(約10億ドル)と『Palworld』(約5億ドル)のわずか2本で約15億ドル。この2本を除く2024年の新作インディーは、全部合計しても約8億ドルで、Wukong 1本に届かなかった(2023年以前に出た作品は別勘定で、それだけで全体の43%を占める)4。もっとも VG Insights 自身「インディーの定義はますます難しく、AA/AAA との線引きに明確な答えはないことが多い」と断っており、この53%には Wukong——1本でインディー総額の4分の1——が含まれている3。届く側のごく一握りが大半を取り、残りの相当数はほとんど誰の目にも触れない。

ここで測られているのは作品あたりの総収入(gross)であって、開発者の手取りではない。VG Insights の集計では、同じチームの1作目は平均で約12万ドル、2作目は16.8万ドル、3作目は20.9万ドルの総収入を上げる3。この平均は上位の作品に引かれており、同じ報告が示す集中の度合いからすれば、中央値はかなり下にあるとみてよい。生活費の足しになる水準に届くのがどれだけ稀かは、この平均からは直接には読み取れない。

ただし、この偏りだけから「技術より流通」と結論するのは早い。分布が上位に集中していることと、沈んだ原因が流通にあることは、別の主張だ。埋もれた作品には、技術的には堅牢でも、飽和したジャンルに投じられたもの、時期を外したもの、そもそも誰も欲しがらなかったものが混じっている。我々は「よくできているのに埋もれた」例を選んで覚えがちで、これは生存者バイアスの裏返しだ。だから正確にはこう言うべきだ——流通は勝敗を分ける主要な変数の一つでありながら、エンジニアが最も過小評価する変数だ。技術の代わりではなく、技術とは別枠で必要になる。

頂点は「流通の勝利」ではない

先の2本——『Black Myth: Wukong』と『Palworld』——を「流通が全て」の証拠に使うのは、むしろ危うい。前者はAAA級の制作規模と原作IPで殴り、後者は「モンスターを捕まえて銃を持たせる」という強烈なプロダクトのフックで火が付いた。市場全体の伸びさえ、1作品の有無でひっくり返る。2024年のインディー市場は前年比82%増の成長が見込まれていたが、Wukong を除けば2018〜2023年の平均年成長率を11%下回る、と同じ報告は書いている4。頂点では、並外れたプロダクトが流通を引き寄せている。逆ではない。

つまり分布の両端は、それぞれ別のことを教える。底では流通の欠如が沈め、頂点では製品の突出が浮かせる。「技術より流通」が本当に効くのは、その中間——“十分に良いのに埋もれている”帯だ。ここを取り違え、平凡なプロダクトを流通で押し込もうとすると、やはり失敗する。流通はゼロを1にするが、1を10にするのは依然としてプロダクトの仕事だ。

なぜエンジニアは構造的に間違うのか

理由は心理的に説明できる。ビルドは「楽しくて、コントロールできる」。コードは書けば動くし、進捗が目に見える。一方ディストリビューションは「不快で、コントロールできない」。SEOは数カ月かけてようやく複利が効き始めるし、オーディエンスは一晩では育たないし、断られ続ける。

だから我々は、得意で気持ちいい方に時間を寄せる。機能を磨き、リファクタし、技術スタックを選び直す。そして流通を「最後にくっつける作業」だと誤認する。結果、コントロールできる変数に過剰投資し、勝敗を分ける変数のうち自分が最も過小評価している方に過小投資する。最適化の方向が、出力(売上)ではなく、自分の快適さに向いている。

流通から逆算してアイデアを選ぶ

処方箋は地味だが、判断基準まで落とす。

第一に、アイデアを技術の面白さでなく流通経路で選ぶ。既に自分が立てるチャネル——運用中のコミュニティ、狙える検索意図、届く既存の読者——に乗るものを優先する。逆に、獲得コストの見えない新規チャネルを前提にするアイデアは、その一点で割り引く。

第二に、作る前に「金を払う意思」を検証する。ランディングページ、事前登録、手作業での提供。ここでの最大の罠は、無料の登録や「いいね」を需要と誤認することだ。だから合否ラインを先に決めておく——たとえば「事前登録者の何%が、少額でも決済に進むか」。進まなければ、そのアイデアは作らない。検証は、作らない判断を下せて初めて意味を持つ。

第三に、流通を「後付けの作業」ではなく「練習するスキル」として扱う。書く、話す、人に会う。これは才能ではなく反復だ。ビルドと同じく、毎日少しずつ上手くなる種類のものだ。先に挙げた1作目から3作目への伸び(12万→16.8万→20.9万ドル)は、その反復が効くことの実測でもある。2023〜24年のヒット(Palworld、Baldur’s Gate III、Lethal Company、V Rising)は、いずれも初作ではなかった4

作ることは、終わりではない。始まりですらない。だが「届けさえすれば」でもない。プロダクトと流通は、順番に片付ける工程ではなく、同時に設計する二つの変数だ。Graham も、初期ユーザーへの過剰な関わりを「成長を回すために許される手段」ではなく「製品を良くするフィードバックループに必要な一部」だと書いている。より良いネズミ捕りを作ることは、ひとつの不可分な操作ではない1。本当のプロダクトは、十分に良いものが、誰かに届いた瞬間に初めて存在し始める。


出典4件
  1. Paul Graham, “Do Things that Don’t Scale”(エッセイ, 2013年7月)。原典の主語は起業志望者(would-be founders)。「良いネズミ捕りを作れば人が押し寄せる、と信じたがる創業者は多いが、実際にスタートアップが離陸するのは創業者が離陸させるからだ」という趣旨を、Stripe(創業者自らその場でユーザーのラップトップにセットアップ)・Airbnb(戸別訪問でのユーザー獲得)などの実例で示す。Making a better mousetrap is not an atomic operation. も同エッセイ。https://paulgraham.com/ds.html 2

  2. “By the Numbers: Analyzing App Downloads in the App Store and Google Play”(appfigures, 2023年7月14日)。アプリストアのダウンロード分布。母集団は個人開発アプリではなく all of the apps in the App Store and on Google Play で、そのうち「月100件以上ダウンロードされたアプリ」を集計対象としている。約半数が月100〜1,000件、8割が月1万件未満、月100万〜1,000万件は0.5%、月1,000万件超は21本。原典は that's 80% of apps with more than 100 downloads per month, so it doesn't include most of the App Store and even less of Google Play と、大多数が集計外である旨を明記し、末尾では that was revenue and this is downloads と、これが売上ではなくダウンロード数の集計であることを断っている。https://appfigures.com/resources/insights/20230714

  3. “Indie games come close to AA/AAA games in revenue on Steam for first time ever, grossing $4 billion in 2024 so far”(Game World Observer / VG Insights, 2024年10月16日)。Steam のインディー収益の分布——Triple-i がインディー売上の53%、趣味開発者は8%(2024年1〜9月の集計)。同期間の新作13,007本の98.9%がインディー、同じチームの1作目・2作目・3作目の平均総収入(gross)は12万・16.8万・20.9万ドル。原典は Wukong と Palworld を indie に分類したうえで、その分類自体が曖昧だと自ら留保している。https://gameworldobserver.com/2024/10/16/indie-games-revenue-steam-vs-aaa-titles-vg-insights 2 3

  4. “Video Game Insights: Indie Games on Steam in 2024”(Dmitriy Byshonkov / Game Dev Reports, 2024年10月17日)。2024年の収益はほぼ2作品に集中(Black Myth: Wukong ≈10億ドル・Palworld ≈5億ドルで計約15億ドル)し、All other indie games released in 2024 earned less than Black Myth: Wukong alone と報告——その「他」の合計約8億ドルは、直前の文が挙げるその2作品を除いた額で、2023年以前の作品が全体の43%という内訳と整合する。Wukong を除くと2024年の成長率が2018〜2023年の平均年成長率を11%下回ること、同じチームの2作目が平均40%多く、3作目がさらに24%多く売れること、2023〜24年のヒットがいずれも初作でないことも同記事。Game World Observer 版と同じく VG Insights Global Indie Games Market Report 2024(現 Sensor Tower)の要約で、一次資料は同一。https://gamedevreports.substack.com/p/video-game-insights-indie-games-on 2 3

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