In Silico

AI・信頼性・評価

AlphaFoldで何が分かり、何が分からないか:構造予測の精度と機能の壁

2026/7/2 (更新: 2026/10/13)

  • AlphaFold
  • 構造生物学
  • タンパク質
  • 創薬
  • AlphaFold3
  • AlphaFold DB
  • RoseTTAFold All-Atom
  • Chai-1
  • Boltz-2
  • CASP14
  • 天然変性領域
  • コネクトーム
  • pLDDT
  • 分子置換
  • 結合親和性
  • アンサンブル
  • 翻訳後修飾
  • ダイナミクス
  • GDT_TS
  • ノーベル化学賞
  • 線虫
  • 神経修飾物質
目次
背景・問い・要点
背景

タンパク質は、アミノ酸が一列につながった鎖である。鎖はアミノ酸の並び(配列)に応じて折りたたまれ、立体的な形(構造)をとる。配列から構造を当てる問題は、約50年ものあいだ未解決のままだった。研究者が最終的に知りたいのは、そのタンパク質が何をし、どう制御されるかという働き(機能)である。

本稿は、DeepMind が開発した AI(人工知能)システム AlphaFold を例に取る。AlphaFold は配列から構造を予測し、その開発者は2024年のノーベル化学賞を受けた。

問い

配列から構造を高い精度で予測できるようになったとき、タンパク質の機能について何が分かり、何がまだ分からないのか。

要点

AlphaFold は単鎖タンパク質の構造を実験に迫る精度で予測し、2億超の予測を公開したが、形は機能を知るのに必要であっても十分ではない。 タンパク質は単一の形でなく構造の集団を行き来し、決まった形を持たない領域も多い。変異の影響の予測は検証されていない。創薬では、2023年の総説が成果をまちまちとし、理由をタンパク質の柔軟さと予測モデルの剛直さに求めている。本当に加速したのは、実験による構造決定である。

モデル・例示

二つの形を行き来する酵素を、一枚の構造で表す

※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。

架空の酵素を一つ考える。この酵素は、基質を受け入れる開いた形と、反応を進める閉じた形を行き来して働く。どちらの形も実在し、働きはその切り替えから生まれる。末端には、ふだん決まった形を持たず、相手の分子に結合したときだけ折りたたまれる短い領域が付いている。

配列から構造を予測すると、この酵素について一枚の構造が返る。開いた形か閉じた形のどちらか一方で、どちらが出るかは確実には選べない。末端の領域は、結合したときの形で描かれることがある。

この一枚から、次の三つが分かる。

  1. 予測した形が実在する形の一つと一致していても、働きを生む切り替えは一枚の構造に表れない。
  2. ふだん決まった形を持たない領域に結合時の形が描かれると、読み手はそれをふだんの姿と取り違えうる。
  3. 一枚の構造に付く確からしさは、形がどこまで当たっていそうかを示すが、働きの強さは示さない。

何を達成したのか

2020年のCASP14で、DeepMindのAlphaFold2は単鎖タンパク質の構造予測でドメイン単位の中央値GDT_TS 92.41、骨格精度の中央値約0.96Å(原子の幅ほど)に到達した2。CASPの共同創設者ジョン・モールトは、この結果を「ある意味で問題は解けた」と評した3。EMBL-EBIと共に公開された予測構造は2億超、既知タンパク質のほぼ全体を覆う4。2024年、ノーベル化学賞がハサビスとジャンパー(構造予測)、ベイカー(計算によるタンパク質設計)に贈られた5。

ただし「解けた」とはCASPの精度で単鎖構造を当てられるという意味であって、「タンパク質折りたたみ問題」を物理過程として解いたわけではない。

AlphaFold DB 自身の集計では、ヒトの残基のうち信頼できる予測は58%、非常に高い信頼は36%にとどまる6。この集計を出した論文自身は、低信頼の領域を単独では構造を持たない可能性が高いと解釈し、長い低信頼の領域は構造ではなく無秩序の予測として読むよう求めている6。つまり残りの約4割は、まだ当てられていない形だけでなく、決まった形を持たない部分も含む。

いま、AlphaFold は独走なのか

「解けた」以後、この分野は急速に競争的になった。DeepMind の AlphaFold3(2024)は予測範囲を複合体・核酸・リガンドへ広げた一方7、当初はコード非公開・サーバ経由・1日10予測などの強いアクセス制限を伴い、「先頭だが閉じている」ことが研究者の批判を呼んだ8。その後この制限は段階的に解けており、2026年6月にコードのライセンスが非商用の CC BY-NC-SA 4.0 から Apache 2.0 へ、2026年7月には重みも申請制から直接ダウンロードへ変わっている8。ただし重みの利用規約はいまも非商用の組織による非商用の利用に限っており、商用では Google Cloud 経由の提供になる8。

その間に開いた競合が、範囲と精度の両面で追いついた。範囲では、ベイカー研の RoseTTAFold All-Atom がタンパク質・核酸・小分子・金属・修飾までを一体で扱い、自由に利用できる(Science, 2024)9。ただしタンパク質とリガンドの複合体予測では、AF3 が RFAA を大きく上回ると DeepMind 側は報告している7。一方、AF3 論文の疑似コード(pseudocode)をもとに再現したオープンモデルも2024年後半に相次いだ(Baidu・ByteDance・Chai Discovery など)8。精度では、そのひとつ Chai Discovery の Chai-1(2024年9月)が、タンパク質とリガンドの複合体のベンチマークで AF3 と同等の成功率(77% 対 76%)を自己申告し、重みとコードを非商用で公開した10。続いて MIT は Boltz-1 を、商用利用まで含めて完全オープンソース(MITライセンス)で AlphaFold3 級の精度に達した初のモデルとして公開し11、Boltz-2 は結合親和性の予測まで広げた12。

だから2026年の実像は「AlphaFold が唯一の頂点」ではない。AlphaFold(とくに複合体予測の AF3)が先頭集団の中心にいながら、オープンな競合が精度で肩を並べ、速度・ライセンス・用途で棲み分けるという構図だ。ただし、要点は変わらない。各ツールが上手くなったのは主に「形」の予測である。Boltz-2 のように結合親和性まで踏み込むツールも出たが、タンパク質が何をし、どう制御されるかという「機能」そのものの予測には届いていない。

形は、必要だが十分ではない

専門家は次の限界を挙げている。

「解けた」の受け取られ方そのものにも懸念がある。UCLAのゴネンは、予測が鵜呑みにされれば「実験で構造を解く必要を正当化するのがますます難しくなる」と言い、検証と新規開拓に要る実験の資金や人材が細ることを懸念する。ハーバードのブアッタは逆に、AlphaFoldが得意な相手を実験から外せる分、難しいタンパク質へ資源を寄せられると見る18。

コネクトームと同じ構図

このギャップは、神経科学のよく知られた構図と同じ形だ。線虫 C. elegans は、1986年にほぼ完全な配線図(コネクトーム)の草稿が公表され、20年以上のちにより網羅的な版が出た動物だ(2024年には成体ショウジョウバエの全脳配線図も公表された19)。だが配線図を手にしてなお、この分野の多くの研究者は自分たちの立場を「コネクトームは必要だが十分ではない」と要約する20。配線図と各シナプスの強度から情報の流れを予測しても、その瞬間どの神経修飾物質が漂っているかを知らなければ予測は大きく外れうる。神経修飾物質は配線図に載らない別の複雑さの層で、周囲の液に漂ってニューロンのふるまいを変える。この構図を紹介する解説記事は、静的な配線図が生きた神経回路のダイナミクスを捉えないとも書く20。

タンパク質も同じだ。折りたたまれた形は、タンパク質の”配線図”である。形は必要で基盤的だが、それだけでは「何をするか」「どう制御されるか」「どう動き、誰と組むか」を語り尽くさない。機能は、ダイナミクス・相互作用・変性・修飾・細胞内文脈から立ち上がる。二つの分野は独立に、「単独では不十分」という同じ結論に到達した。

どこで本当に加速し、どこで過大評価か

本当に加速したのは実験構造生物学、とりわけX線結晶構造解析の分子置換だ。ある6か月間にPDBで公開され、SAD法(単波長異常分散法)で決定された全215構造にAF2モデルを使った手法を試したところ、約87%(187件)で高品質な構造モデルが得られた(Cα原子の半数以上が実測構造と2Å以内で一致)という報告がある(Terwilliger ら 2023)21。著者らはこの215件を、AlphaFoldの訓練データより後に決定された難しい集合として選んでいる。この215構造の再決定の結果を使った同じグループの続報は、予測を「きわめて有用な仮説」と呼び、実験による構造決定を加速するが置き換えないと題している22。AlphaFoldは実験を置き換えるのでなく補完する。

過大評価は創薬だ。AlphaFoldは創薬を変えると喧伝されたが、2023年の総説は「今日までそうなっていない」と言い切り、成果はまちまちだと評している23。総説はその理由を、タンパク質が剛直なスナップショットではなく、柔軟で多様な配座をとることに求めている23。X線構造も剛直だが、リガンドと共結晶化すれば結合に伴う構造変化を捕まえられる、と同じ総説は書く。AlphaFoldのモデルは薬剤ポケットも含めて剛直で、その手が使えない。DeepMind自身も、AF3論文では創薬への寄与を結語で将来の見通しとして語るにとどめている7。


出典23件
  1. J. Jumper ら「Applying and improving AlphaFold at CASP14」Proteins 89(12), 2021. https://doi.org/10.1002/prot.26257 — CASP14 の成績報告。ドメイン単位の GDT_TS 中央値92.4と、92ドメイン中87で70超・58で90超(いずれも5予測中のベスト)を同じ文に並べる。 ↩

  2. J. Jumper ら「Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold」Nature 596, 2021. https://www.nature.com/articles/s41586-021-03819-2 — AlphaFold2 の本体論文。CASP14 での骨格精度の中央値0.96Å(r.m.s.d.95)を報告する。 ↩

  3. E. Callaway「‘It will change everything’: DeepMind’s AI makes gigantic leap in solving protein structures」Nature(news), 2020. https://www.nature.com/articles/d41586-020-03348-4 — CASP 共同創設者 J. モールトの「ある意味で問題は解けた」を伝える。 ↩

  4. AlphaFold Protein Structure Database(EMBL-EBI/DeepMind). https://alphafold.ebi.ac.uk/about — 2億超の予測構造を公開し、既知タンパク質のほぼ全体を覆うとする。 ↩

  5. 2024年ノーベル化学賞, The Nobel Prize. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2024/press-release/ — ハサビスとジャンパー(構造予測)、ベイカー(計算によるタンパク質設計)への授賞。 ↩

  6. K. Tunyasuvunakool ら「Highly accurate protein structure prediction for the human proteome」Nature 596, 2021. https://www.nature.com/articles/s41586-021-03828-1 — ヒトの残基の58%が信頼できる予測、36%が非常に高い信頼。長い低信頼の領域は無秩序の予測として読む。 ↩ ↩2

  7. Abramson ら「Accurate structure prediction of biomolecular interactions with AlphaFold 3」Nature, 2024. https://www.nature.com/articles/s41586-024-07487-w — AF3 本体。PoseBusters で RFAA を大きく上回るとし、治療薬開発への寄与は結語で未来形にとどめる。 ↩ ↩2 ↩3

  8. AlphaFold3 のアクセス制限と再現モデル, Nature(news), 2024-11. https://www.nature.com/articles/d41586-024-03708-4 https://www.genengnews.com/topics/artificial-intelligence/alphafold-3-angst-limited-accessibility-stirs-outcry-from-researchers/ https://github.com/google-deepmind/alphafold3 — 当初のサーバ限定・1日10件(GEN)と研究者の批判、Baidu・ByteDance・Chai の再現、2026年6月のコード Apache 2.0 化と7月の重みの直接配布(リポジトリ履歴)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  9. R. Krishna ら「Generalized biomolecular modeling and design with RoseTTAFold All-Atom」Science, 2024. https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl2528 https://github.com/baker-laboratory/RoseTTAFold-All-Atom — タンパク質・核酸・小分子・金属・修飾を一体で扱う。コードと重みは BSD ライセンス。 ↩

  10. Chai Discovery「Chai-1: Decoding the molecular interactions of life」bioRxiv, 2024. https://doi.org/10.1101/2024.10.10.615955 https://github.com/chaidiscovery/chai-lab — PoseBusters の成功率77%を AF3 の公開予測の76%と並べる。2024年9月に非商用で公開し、11月に Apache 2.0 へ変更。 ↩

  11. MIT News, 2024-12-17. https://news.mit.edu/2024/researchers-introduce-boltz-1-open-source-model-predicting-biomolecular-structures-1217 — AF3 の水準に達した初の完全オープンソースモデルとして紹介する。 ↩

  12. S. Passaro ら「Boltz-2: Towards Accurate and Efficient Binding Affinity Prediction」bioRxiv, 2025. https://doi.org/10.1101/2025.06.14.659707 — 小分子とタンパク質の結合親和性で FEP 法に迫った初の AI モデルだと著者らはする。 ↩

  13. 構造とダイナミクスの限界に関する専門家評(J. ダイソン, Scripps), Science News, 2022-09-23. https://www.sciencenews.org/article/alphafold-ai-protein-structure-folding-prediction — ダイナミクスは AlphaFold が与えないもので、静的な構造は働きのすべてを教えない、とするダイソンの発言。 ↩

  14. Alderson ら「Systematic identification of conditionally folded intrinsically disordered regions by AlphaFold2」PNAS 2023. https://doi.org/10.1073/pnas.2304302120 — ヒトの無秩序領域の約15%に高信頼の構造。4E-BP2 では二状態の混合が機構を隠す。 ↩ ↩2 ↩3

  15. Ward ら「Prediction and Functional Analysis of Native Disorder in Proteins from the Three Kingdoms of Life」J Mol Biol 2004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15019783/ — 長い無秩序領域の予測値:真核33.0%・真正細菌4.2%・古細菌2.0%。 ↩

  16. AlphaFold Protein Structure Database「FAQ: What use cases does AlphaFold not support?」. https://alphafold.ebi.ac.uk/about — 変異の効果の予測は未検証で、複数の配座があっても通常は一つしか出さず、補因子・リガンド・翻訳後修飾の位置は予測しない。 ↩ ↩2 ↩3

  17. Pak ら「Using AlphaFold to predict the impact of single mutations on protein stability and function」PLOS ONE, 2023. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10019719/ — AlphaFold の出力指標と、変異による安定性・蛍光の変化との相関は非常に弱いか無いとする。 ↩ ↩2

  18. T. ゴネン(UCLA)と N. ブアッタ(ハーバード医学大学院)の評, Science News, 2022-09-23. https://www.sciencenews.org/article/alphafold-ai-protein-structure-folding-prediction — 予測が鵜呑みにされると実験の必要を正当化しにくくなるとするゴネンと、資源を難しいタンパク質へ寄せられるとするブアッタ。 ↩

  19. S. Dorkenwald ら「Neuronal wiring diagram of an adult brain」Nature 634, 2024. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07558-y — 成体ショウジョウバエ全脳のシナプス解像度コネクトーム(FlyWire)。線虫と幼虫の再構築と比べている。 ↩

  20. F. Jabr「The Connectome Debate: Is Mapping the Mind of a Worm Worth It?」Scientific American, 2012. https://www.scientificamerican.com/article/c-elegans-connectome/ — 1986年の草稿と後の網羅版、「必要だが十分ではない」という研究者の要約、神経修飾物質による予測の外れを紹介する。 ↩ ↩2

  21. Terwilliger ら「Accelerating crystal structure determination with iterative AlphaFold prediction」Acta Cryst. D, 2023. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9986801/ — SAD 法の全215構造中187件(87%)で、Cα の半数以上が2Å以内のモデル。 ↩

  22. Terwilliger ら「AlphaFold predictions are valuable hypotheses and accelerate but do not replace experimental structure determination」Nat Methods, 2024. https://doi.org/10.1038/s41592-023-02087-4 — 上の再決定の結果を使う。 ↩

  23. Nussinov ら「AlphaFold, allosteric, and orthosteric drug discovery: Ways forward」Drug Discov Today, 2023. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10238671/ — 創薬を変えるとの喧伝はまだ実現していないとし、理由をタンパク質の柔軟さとモデルの剛直さに求める。 ↩ ↩2

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。