AI・信頼性・評価
AIの電力消費:1回は小さいのにデータセンター総量が倍増する理由
- AIの電力
- エネルギー
- データセンター
- Gemini
- IEA
- Energy and AI
- ジェヴォンズのパラドックス
- リバウンド効果
- 中央値
- 測定境界
- 推論
- test-time scaling
- アクセラレーテッドサーバー
- 送電網
- 基準ケース
- High Efficiency Case
- Lift-Off Case
- Headwinds Case
- 市場ベース
- バッチ処理
- DeepSeek-R1
- Llama 3.1 70B
- De Vries
- Altman
- フロンティア級
目次
2025年、生成AIへの質問1回あたりの電気は、事業者の本番実測の中央値で、テレビを9秒見る電気に満たないと報告された。同じ年、世界のデータセンターの電力は2030年までに倍増し、世界の電力の3%弱に達すると見積もられた。前者は1回の質問が使う電気、後者は産業全体が送電網に求める電気で、測っている対象が違う。
1回の値は事業者自身の本番実測、総量の値は国際機関の推計であって、どちらも放言ではない。それでも両方が「AIの電力」という一つの言葉で語られるため、「1回の質問など、テレビを数秒つけるのと変わらない」という説明と、「AIのデータセンターが国一つ分の電力を飲み込む」という警告が、同じ話題として並んでしまう。この二つが出そろったのは2025年である。推定と伝聞ではなく、一次資料どうしを並べて確かめられるようになった。本稿は、Google による Gemini の本番実測、Microsoft の推計、国際エネルギー機関(IEA)の報告書 Energy and AI、リバウンド効果を論じた論文を例に取る。
「1クエリは微小」と「総量は爆発的」という二つの言い方は、どちらかが誤りなのか、それとも両方が同時に成り立つのか。両方なら何が二つをつないでいるのかまで、2025〜26年の一次資料で確かめる。
どちらも正しい。二つは違う単位を測っており、効率化が利用を増やすリバウンド効果(ジェヴォンズのパラドックス)という枠組みを当てると、両立の筋が通る。 ミクロ側は、Google が Gemini の本番環境を実測した中央値クエリ 0.24Wh だ。直前の12か月で33分の1に下がった値で、Microsoft の独立試算もこれと同じ帯に収まる12。マクロ側は、IEA がデータセンター電力を2030年に 945TWh へ倍増すると見込む3。単価がそこまで下がっても、利用がそれ以上に増えれば総量は増える4。ただし Microsoft と IEA は、効率化が総量の伸びを抑える側の材料も挙げており、リバウンド効果がどこまで効くかは資料の上でも決まっていない23。
1回の電力と総量は、回数を掛けてはじめてつながる
※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。
AIの電力をめぐる議論が噛み合わないのは、単位の違う二つの話が同じ言葉で流通しているからだ。片方は1クエリあたりのエネルギー(Wh)。もう片方は産業全体の総量(TWh)。前者は「あなたの1回の質問がどれだけ食うか」、後者は「世界中の利用が積み上がって送電網に何を求めるか」を測る。1TWh は1兆Wh で、桁が12も違う。
二つをつなぐのは回数である。1回に1Whを使う質問が1日10億回あるとすると、1日の電力は10億Wh(1GWh)、1年で約0.37TWhになる。1回の電力を10分の1の0.1Whに下げても、回数が100倍の1日1,000億回に増えれば、1年の総量は約3.7TWhと10倍になる。回数の増え方が5倍にとどまれば、1年の総量は約0.18TWhと半分に下がる。
1回の値と総量を突き合わせるとき、読み違えやすい点が二つある。
- 1回の電力(Wh)と総量(TWh)は、回数を掛けるまで比べられない。1回の値が小さいことは、総量が小さいことを意味しない。
- 1回の電力が下がったとき総量が増えるか減るかは、回数の増え方が1回の電力の下がり方を上回るかどうかで決まる。
ミクロ:1クエリは小さく、急速に小さくなっている
Google は Gemini の本番環境を実測し、2025年5月時点で中央値のテキストプロンプトは 0.24Wh と報告した1。この値はテレビ視聴9秒分未満にあたる。事業者自身の報告であって、第三者による検証ではない。同じ報告は結論で、1回の影響は日常の多くの活動に比べて小さいが、世界規模で利用が広がっている以上、AIの環境負荷を下げることに注力し続けることが欠かせないとも書く1。重要なのは測定の範囲だ。AIアクセラレータの稼働電力だけでなく、ホスト機のCPU・メモリ、待機中の予備機、データセンターの冷却などのオーバーヘッドまで含めた推論スタック全体の値である(ただしモデル学習・データ保存・外部ネットワーク・端末は境界の外)。同じ本番環境でも、狭い既存手法をあてはめれば 0.10Wh にしかならない。包括的な境界で測るとその2.4倍になる。差は測定境界の広さに加え、最も効率的なデータセンター上位10%を標本にするか、全データセンターの平均をとるかによっても生じる。「1クエリ何Wh」は、境界と標本を言わなければ2倍以上動く。
そのうえで、この中央値は2024年5月からの12か月で33分の1に下がった。内訳はモデル改良で23分の1、機械利用率の改善で1.4分の1である。どちらもソフトウェア側の効率化だ。
炭素は44分の1だが、内訳は一様ではない。クリーン電力調達とワークロード配置で電力あたりの排出係数が1.4分の1に下がり、電力の33分の1と重なって電力由来(Scope 2・市場ベース)は47分の1まで落ちた。一方、機材に紐づく排出(Scope 1+3。うち Scope 3 が内包排出)は36分の1にとどまる。総量の44分の1はこの二つの合成であって、効率化だけの成果ではない。なおこの電力由来の勘定は市場ベースで、地域ベースを採れば数字は変わる1。
Microsoft のチームも独立に、トークン処理速度・ノード電力・オーバーヘッドから積み上げる枠組みでフロンティア級(200Bパラメタ超)の推論を見積もり、中央値 0.31Wh(四分位範囲 0.16〜0.60)を得た2。こちらは実測ではなく、トークン長・利用率・ハード構成の置き方に依存する推計である2。広く引用されてきた非本番前提の見積りは、本番の最適化(バッチ処理や推論高速化)を織り込むと4〜20倍の過大だったという。この倍率は 0.31Wh との対比ではなく、同じモデルどうしを突き合わせて出てくる値だ。バッチ処理も推論エンジンも使わずに測った Llama 3.1 70B の 1.01Wh に対し、本番前提の推計は 0.09Wh。IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)が Mixtral 8×22B に与えた約1.25Wh に対しては 0.06Wh、DeepSeek-R1 の約2.25Wh に対しては 0.63Wh。De Vries (2023) の「ChatGPT 1クエリ 2.9Wh」は、フロンティア級の 0.31Wh と対置されている。過大と判定された見積りにはフロンティア級より小さいモデルのものも混じっているが、4〜20倍の差はモデルの大小ではなく、本番の最適化を織り込むかどうかで生じている。さらに彼らは、モデル・サービング・ハードを合わせて8〜20倍の効率化余地が見通せると書く。第三者による GPT-4o の推計(0.30Wh・0.42Wh)や、Altman が ChatGPT の平均的なクエリについて公表した値(0.34Wh)も、0.24〜0.42Wh の帯に収まる2。原典は製品・モデル・作業負荷・測定手法が異なるため標準化された比較ではないと断るが、この帯そのものは事業者1社の自己申告には還元されない2。1クエリの電力は小さく、まだ小さくなる。
マクロ:総量は倍増へ向かう
では安心か。総量を見ると、評価は逆転する。IEA の報告書 Energy and AI は、世界のデータセンター電力を 2024年に約415TWh(世界の電力の約1.5%)と推計し、2030年には約945TWhへ倍増、世界の電力の3%弱に達すると見込む3。牽引役はAIだ。AI向けのアクセラレーテッドサーバー(GPU などの演算加速器を積んだもの)の電力は年30%で伸び、増加分のほぼ半分を占める。地域の偏りも激しい。米国の一人あたりデータセンター電力は2024年の約540kWhから、2030年には1200kWh超へ増える。これは家庭の年間電力の1割に相当する。ただし945TWhはシナリオの基準ケースであって予言ではない。AI普及が速い Lift-Off Case では2035年のデータセンター電力が基準ケースより約45%高い1700TWh超(世界の電力の4.4%)に達し、普及が遅れる Headwinds Case では設備ストックが基準ケースを下回って2030年以降頭打ちになる3。IEA は、この幅を決める不確実性として、ハードとソフトの効率改善、AI の普及、エネルギー部門のボトルネックの三つを挙げる3。基準ケースと同じ需要を効率改善の上積みで満たす High Efficiency Case では15%超の節電となり、2035年のデータセンター電力は約970TWh(世界の電力の2.6%)にとどまる3。
上で引いた Microsoft 論文は、同じ IEA 報告書のクエリ当たり推計を4〜20倍の過大に数え、それらを大規模推論へ外挿するのは主要AI製品の電力使用を代表しない(extrapolating them to large-scale inference is not representative)とまで書く2。IEA のモデルはサーバ出荷の業界見通しを主な入力にしており、この945TWhは上に見たクエリ当たり推計とは経路が違う3。だから Microsoft の過大の指摘で、945TWhがそのまま否定されるわけではない。それでも、片方の一次資料がもう片方の推計の一部を過大と数えている以上、Microsoft と IEA の数字を額面のまま並べて読むことはできない。
IEA 自身は「データセンターは2024〜30年の世界の電力需要増分の1割未満」とも付記しており、地球全体では主役ではない3。だがデータセンターは電気自動車と違って特定の場所に集まりやすく、送電網への統合はより難しくなりうる3。IEA の要旨は、送電網はすでに多くの場所で逼迫しており、このリスクに対処しなければ計画中のデータセンターの約2割が遅れうると見積もる3。米国で開発中のデータセンターの半数は既存の大きな集積地にあり、局所的なボトルネックのリスクを高めうるとも書く3。ミクロの微小さと、マクロの圧力は、同時に成立している。
リバウンド効果は両者をつなぐか
この「両方正しい」をつなぐ枠組みとして挙がるのが、リバウンド効果(rebound effect)だ。効率が上がって単価が下がると、その分だけ使う量が増えて、節約が目減りする。目減りが100%を超えて総量がかえって増えるところまで行った場合を、19世紀の石炭で観察されたジェヴォンズのパラドックスと呼ぶ。原典もこの入れ子で扱っており、リバウンド効果の一例としてジェヴォンズのパラドックスを挙げている(indirect or rebound effects … due to effects such as Jevons Paradox)4。Luccioni・Strubell・Crawford は、AIの環境論争が「気候対策に役立つ」派と「資源需要が急増する」派に二極化し、どちらも主に直接影響を論じ、重要な間接影響を扱ってこなかったと指摘したうえで、効率の改善だけでは環境負荷の純減を保証できないと論じる4。なお本稿が並べているミクロ/マクロという軸は、彼女らが述べている二極そのものではなく、本稿の整理である。効率化は単価を下げ、単価の低下は利用を広げる。1クエリが33分の1になっても、クエリ数がそれ以上に増えれば総量は増える。ただし手元の一次資料で見えるのは、単価の下落と総量の伸びがそれぞれ起きていることまでだ。Gemini の1クエリ電力は2024年5月からの12か月で33分の1になり1、AI に限らないデータセンター全体の電力は2024年までの5年間に年12%で伸びた3。二つは期間も対象も揃っておらず、利用増が効率化の結果だという因果までは示さない。彼女らの結論は、技術効率の指標だけでなく、ビジネスの動機・ガバナンス・社会規範まで含めた分析が要る、というものだ。これは方向を示す枠組みであって、AIの総量が必ず増え続けるという証明ではない4。
逆向きの材料も、同じ一次資料の中に在る。Microsoft の論文は、デジタル基盤の電力予測は、需要が何倍にも伸びる中で効率とシステム最適化の急速な向上を無視し、繰り返し需要を過大に見積もってきたとする。その例として、2015年に2030年のデータセンター電力を年8,000TWhと見た予測が、いまは600〜800TWhと推計されていることを挙げる2。この600〜800TWhは、上で引いた IEA の基準ケースが同じ2030年に見込む約945TWhより低い。Microsoft 論文は著者の意見として、絶対量は伸びるが、ハード・ソフト・展開の効率化が長期の足跡を和らげうると書く。もっとも同じ論文は、1クエリあたりの電力やトークン単価の低下が利用を増やし、効率が上がっても推論の総電力を押し上げうるリバウンド効果にも触れている2。IEA も、普及が遅れる Headwinds Case では、2010年代初頭と同様に効率改善が IT ストックの利用増の影響の大半を相殺し、データセンター電力は約700TWhで頭打ちになると見ている3。
総量を押し上げる側には、もう一つ、単価そのものを押し上げる要因もある。Microsoft の同じ研究は、長く考えさせる推論(test-time scaling)として出力を標準の15倍(中央値5,000トークン)に伸ばしたシナリオを同じ枠組みで推計し、エネルギーが13倍(中央値3.91Wh)に跳ねるという結果を得ている。この値は実測ではなく推計である2。推論モードによるエネルギー増は、リバウンド効果の側の論文も DeepSeek-R1 を例に独立に指摘している4。推論能力ゆえに従来手法より多くの推論時計算とエネルギーを要する、という書き方だ(much more inference-time computation and energy than previous approaches)。ただし同じ Microsoft 論文は、モデルとサービングの最適化を入れれば同じ5,000トークンの推論クエリを1〜1.5Whで供給できると推計する2。1日10億クエリでは、長いクエリが無ければ 0.7GWh/日、1割が長いクエリになると 1.7GWh/日になり、最適化を入れると 0.8GWh/日まで下がるという2。長い推論による増加と最適化による減少のどちらが大きいかは決まっていない。
Google の 0.24Wh の「中央値」も、定義を見ると素朴な中央値ではない。モデルをエネルギー効率の順に並べ、50パーセンタイルのプロンプトを供給するモデルを一つ選び、そのモデルの平均を採っている。原典自身が、分布は歪みうるもので、外れ値の歪み方は時期によって大きく変動すると断っており、その一因として、トークン数の多いプロンプトや稼働率の低いモデルが供給するプロンプトが不釣り合いに多くのエネルギーを使うことを挙げる1。原典が平均ではなく中央値を採るのは、こうした分布では算術平均が極端な値に強く引かれ、典型的な利用者の影響を表さないからだ1。「1クエリは微小」は、クエリの形が変われば揺らぐ。「AIの電力」は、単位を言わなければ何も言っていないに等しい。
出典4件
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Elsworth ほか (Google)「Measuring the environmental impact of delivering AI at Google Scale」arXiv:2508.15734, 2025. https://arxiv.org/abs/2508.15734 — Gemini の本番実測で中央値0.24Whとする査読前の事業者報告。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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Oviedo ほか (Microsoft)「Energy Use of AI Inference, Efficiency Pathways, and Test-Time Scaling」Joule, 2026. https://arxiv.org/abs/2509.20241 https://doi.org/10.1016/j.joule.2026.102430 — フロンティア級を中央値0.31Whと推計し、流布した見積りを4〜20倍の過大とする。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
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International Energy Agency「Energy and AI — Energy demand from AI」2025. https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/energy-demand-from-ai https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/executive-summary — データセンター電力が基準ケースで2030年に約945TWhへ倍増すると見込み、3つの感応度ケースで幅を示す。要旨は送電網の逼迫と計画の遅延リスクを書く。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13
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Luccioni ほか「From Efficiency Gains to Rebound Effects: The Problem of Jevons’ Paradox in AI’s Polarized Environmental Debate」FAccT, 2025. https://arxiv.org/abs/2501.16548 https://doi.org/10.1145/3715275.3732007 — リバウンド効果を論じる。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。