音楽
チップチューンはなぜ“あの音”なのか。制約が生んだ音楽
- チップチューン
- ゲーム音楽
- 音源チップ
- Ricoh 2A03
- SID
- Game Boy
- Little Sound DJ
- Nanoloop
- Ultimate Soundtracker
- トラッカー
- PSG
- 矩形波
- 三角波
- ノイズ
- DPCM
- アルペジオ
- デューティ比
- APU
- デモシーン
- 倍音
- ブレイク
- ファミコン
- Commodore 64
- Amiga
- クラックイントロ
- リハーモナイズ
- コール&レスポンス
目次
明るく、軽く、前へ跳ねていく、いわゆる「8ビットの音」で鳴る音楽がある。チップチューンと呼ばれるこの音楽は、往年のアーケード機・コンピュータ・家庭用機の PSG(プログラマブル・サウンド・ジェネレータ)サウンドチップやシンセサイザーで作られる1。その音源チップが出せる波形は数種類しかなく、同時に鳴らせる声部も少なかった。
普通の音楽では、鳴らしたい音が先にあって、それに合う機材を選ぶ。この音楽では順序が逆で、チップが出せる音の種類が先に決まっており、作り手はその狭い枠の中で曲を組み立てる。和音を一度に鳴らせないなら和音を分けて速く鳴らす、というように、足りなさを補う手口そのものが音楽の形になってきた。本稿は、C major・144 BPM でつくった一曲を例に取る。
チップチューンの“あの音”は、どこから来ているのか。少ない波形と声部という枠の中で、曲はどう組み立てられているのか。
C major・144 BPM の一曲を4チャンネルに割り振る
例に取るのは、ページ上部のプレーヤーで聴ける一曲である(C major・144 BPM・約41秒)。曲名は 「chiptune bounce」 とした。ジャンル名の chiptune に bounce を足した、この曲だけの呼び名である。
この曲は NES風のチップチューンとして、ファミコンのゲーム音楽の編成で組まれている。ファミコン(NES)の音源チップ Ricoh 2A03 は、矩形波2つ・三角波1つ・ノイズ1つ・サンプル音を鳴らす DPCM 1つの5チャンネルを持つ2。この曲は DPCM を除いた4チャンネルの役割分担をなぞる。
- リード:矩形波(パルス波)が主旋律を取る。
- アルペジオ:和音を 1/16 で駆け上がる高速分散で鳴らす。和音を同時に出せるチャンネルが足りないぶんを、速さで「和音感」に化けさせる。
- ベース:三角波が低音を支える。
- ドラム:ノイズchが刻む。
コード進行は I–V–vi–IV、具体的には C–G–Am–F。これはポップスで最もよく使われる進行の一つで、明るい響きを持つ。Cメジャーは♯も♭も付かない長調だ。144 BPMは人が自然に体を揺らすアップテンポ帯。曲名の bounce(跳ねる)は、この「明るい四つの和音+前のめりのテンポ」が生む跳ねる推進感を指している。
曲は、四つの和音(C–G–Am–F)のループを骨格にしつつ、ひとめぐりごとに表情を変えていく。イントロでドラムを少しずつ足して立ち上げ、Aセクションで本来のグルーヴに入る。続くBセクションでは、アルペジオを1オクターブ上げ、リードをより高い別のフレーズに差し替えて変化をつける。Bセクションの終わりに短いフィルを置き、そのあと一小節だけベースとアルペジオを抜くブレイクで緊張をつくる。戻りではリードにオクターブのハモリを重ね、ベースを動かして推進力を足す。最後はエンディングの一撃で締める。
ただし戻り以降で重ねるオクターブのハモリと最後の小節の保続音は、矩形波2チャンネルという実機の制約を超えている。ドラムもキック・スネア・ハイハットを同時に重ねて鳴らすので、ノイズ1チャンネルの枠には収まっていない。波形そのものも実機の再現ではなく、矩形波は奇数次倍音を第9次まで、三角波は第7次まで足し合わせた正弦波の近似で、デューティ比の切り替えも16段の階段も持たない。
この曲について。この曲は、波形を一から計算する小さなプログラムでAIが合成したものだ(乱数はシード固定で、何度走らせても同じ音が出る=再現可能)。DAWや実機で演奏・録音したのではなく、コードによる音響合成である。ここでは、これを「AIと一緒に音楽を作り、その仕組みを学ぶ」試みの一例として置いている。上で説明した設計(編成・進行・テンポ・展開)は、そのプログラムが実際に組み立てている内容そのものだ。
チップチューンとは「チップのための音楽」である
チップチューンとは、往年のアーケード機・コンピュータ・家庭用機の PSG(プログラマブル・サウンド・ジェネレータ)サウンドチップやシンセサイザーで作られた音楽を指す1。そう定義したうえで眺めると、発想が逆なのが面白い。普通は「鳴らしたい音」が先にあって機材を選ぶが、ここではチップが出せる音の種類が先に決まっていて、その狭い枠の中で曲を組み立てる。枠が音楽の形を決める。制約が先、表現が後、という構造だ。
“あの音”の出どころ:数えるほどの波形
象徴的なのが、ファミコン(NES=Nintendo Entertainment System)に載っていた Ricoh 2A03 というチップだ。音を出す部分(APU=Audio Processing Unit、音声処理ユニット。2A03 では2基に分かれている)が持つのは、合わせて5チャンネルだ。内訳は矩形波(パルス波)が2つ、三角波が1つ、ノイズが1つ、それにサンプル音を鳴らす DPCM(1ビットのデルタ変調PCM)が1つである2。メロディは2つの矩形波、ベースは三角波、リズムはノイズ、という役割分担が基本になる。出典によれば、サンプルの符号化がメモリを食うため、NES ソフトの大半は DPCM を除く4チャンネルだけで書かれていた2。
三角波の作り方も独特だ。なめらかな三角ではなく、音量を16段の階段状(0→15→0)に刻んで作る。この“カクカク”した段差が、主音の4オクターブ上に、主音の8分の1の音量の倍音を生み、少しザラついた、ブザーのような質感をもたらす2。この質感は、豊かな音色のために選ばれたものではなく、16段の階段状の音量という作り方から出てくる。しかも音量そのもので三角形を描いているため、このチャンネルには独立した音量の制御が無い2。「あの音」は、限られた波形で鳴る音である。チップが持つのは豊かな音色のパレットではなく、数えるほどの波形だ。だからこそ、書き手の工夫が前に出る。
制約から生まれた文化:デモシーンとトラッカー、そしてGame Boy
チップチューンはまず1970年代末〜80年代初頭の日本で、アーケード機や家庭用機に載っていた音源チップの音として生まれた1。Commodore 64 の SID チップを使うデモシーンにも、独自の流れがある。出典によれば、のちにいくつかのデモグループが、ゲームから抜き出した曲に代えて自前の曲を使い始めた。1986年以降の SID の作曲は、C64 デモシーンと不可分のまま今日まで続いている。アーカイブには、出典が引く2022年時点ですでに5万5千曲を超える SID 曲が集まっていた1。
もう一系統は Amiga から来た。Amiga はサンプル再生の機械で、音源チップによる合成からはむしろ遠ざかった側だ。それでも1987年の Ultimate Soundtracker が広めたトラッカーという制作法はここから育ち、その中から、サンプルではなく単純な波形を使い、SID の音を思わせるトラッカー音楽の一派が生まれた1。「チップ」の名も、音源チップではなく Amiga の chip memory に由来する1。小さなトラッカー・モジュールを指すのが語の原義で、いまは実際にチップで合成した音楽まで含めて「チップチューン」と呼ぶ、と出典は書く1。容量の小さいこの音楽は、サイズ制限の厳しいデモやクラックイントロに好都合だった。そのため、この音楽は地下で育った1。
2000年代後半には、Game Boy から別の流れが起きた。Little Sound DJ や Nanoloop といったソフトが登場し、ゲーム機が手のひらサイズの作曲機になった。出典はこれを「新しい波」と呼び、デモシーンやトラッカーの文化よりライブ演奏と音源リリースに重心があり、新しい担い手はその文化をたいてい遠巻きにしか知らない、とする1。制約のある安価な機械が、むしろ表現の裾野を広げた。
どう作るのか(一般論として)
作り方は大きく二系統ある。実機・実チップで鳴らす(2A03 や Game Boy を直接使う)か、チップの挙動をソフトで再現する(エミュレーションやVST音源)かだ。どちらも、矩形波・三角波・ノイズという限られた波形を組み合わせ、デューティ比(矩形波の幅)やアルペジオ(和音を高速に分解して鳴らし、和音感を出す手口)で“足りなさ”を補う。和音を同時に鳴らせるチャンネルが足りないから、高速に分散させて和音に聞かせる。これは制約を逆手に取った代表的な技法である。出典も、初期の音源チップは同時に出せる声部が少ないため、高速アルペジオで和声を模すのが常套手段で、電子的な音色と並ぶチップチューンの最も重要な特徴の一つだとしている1。
単調さを避けるチップチューンの“展開”
チップチューンの“狭さ”は、ただの制約ではない。限られたチャンネルでどう飽きさせないかを工夫することが、書き手の腕の見せどころだ。四チャンネルでリード・ドラム・ベースを組み立てる編曲には入門教材がある3。ただし、公開されている目次で見るかぎり、「一曲の中で飽きさせない」ための手筋がそこに体系立てて扱われている様子はない。以下は本稿が自分で整理した展開の手筋である。出典の裏づけがあるのはドラムのパターンに変化をつける点のみである。
- 曲の骨格:短いイントロ → メインのループ → ブレイク(一度音を抜く) → 戻り、という流れが基本。軸になるモチーフを一つ決めて、そこへ戻ってくる形にする。
- 小さな変化を仕込む:4〜8小節ごとにさりげなく変える。メロディの終わり方を変える、装飾音(グレースノート)を足す、ベースやドラムのパターンを差し替える。
- 対比のBセクション:途中で雰囲気を変える。旋法(モード)を変える、アルペジオの高さや速さを切り替える、あるいは旋律そのものを別のものに差し替えるだけでもよい。
- 戻ったときに足す:メインに戻る瞬間に新要素を入れる。ベースのリズムを変えて推進力を足す、ハモリを重ねて厚くする、同じ進行を和音だけ付け替える(リハーモナイズ)。
- チャンネルの会話:コール&レスポンスで、リードのフレーズにベースが“返事”をする。少ない声部でも、掛け合いにすると豊かに聞こえる。
- 音色のオートメーション:矩形波のデューティ比(波形の幅)を時間で変えるなど、固定パターンに微妙な揺らぎを与える。
制約が厳しいぶん、「同じ枠の中で、いかに表情を変え続けるか」という“展開の工夫”が一曲の聴きどころになる。
出典3件
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Wikipedia「Chiptune」. https://en.wikipedia.org/wiki/Chiptune — PSG 音源チップやシンセサイザーによる音楽という定義と、日本の起源・C64 の SID・Amiga のトラッカーと語源・Game Boy の新しい波・高速アルペジオ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
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Wikipedia「Ricoh 2A03」. https://en.wikipedia.org/wiki/Ricoh_2A03 — 2基の APU の5チャンネル、16段の音量で作る三角波の倍音と独立音量の欠如、NES ソフトの大半が DPCM を除く4チャンネルで書かれた理由。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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Soundfly「Arranging in Four Channels」. https://soundfly.com/courses/arranging-in-four-channels — LSDJ を教材とする45分の入門コース(要ログイン)。目次で確かめられる展開の手筋は、ドラムのパターンの変化(Creating Variations)だけ。 ↩
この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。